ビバ・キューバ あなたも行ける禁断の国

文/細田雅大(Text by Masahiro Hosoda)
写真/川畑嘉文(Photos by Yoshifumi Kawabata)

HABANA

メキシコ経由でハバナへ

 先に触れた法律のおかげで、米国とキューバを直接結ぶ航空会社も存在せず、したがってキューバへは第三国を経由する旅となる。カナダやメキシコを経て首都ハバナへ飛ぶのが一般的だ。ニューヨーク在住の私は、まずカンクンへと向かった。
 キューバに入国する観光客は、ツーリスト・カードという用紙を購入する。キューバとの路線がある空港ならどこでも入手できるようで、私はカンクン国際空港のクバーナ航空カウンターで約21ドルで手に入れた。
 法律に違反しているにも関わらず、米国人がキューバ観光を楽しめるのは、ガイドブックなどでは「ツーリスト・カード」と称されているが、カンクンの空港では「ビザ」と呼ばれていたこの用紙のおかげだ。
 国際線の空港で出入国する場合、普通はパスポートにその国のスタンプが押される。しかしキューバでは押されない。キューバ印のスタンプが押されていれば、帰国時の空港で窮地に陥りかねない米国人のためを思ってかどうかは知らない。キューバではただ、入国時にツーリスト・カードの半分がちぎり取られ、出国時に残りの半分を提出するだけなのだ。
 だから、入出国の痕跡はパスポートに一切残らない。
 もっとも、メキシコ経由の場合は、いささか問題が残る。メキシコでは入国時にのみスタンプが押されるからだ。メキシコ経由でキューバへ行き、またメキシコへ戻ってきた場合、キューバ旅行の痕跡は残らないが、メキシコ入国のスタンプが不自然に2つ並んでしまう。
 この問題については、どうやら誰もが「そんな細部まで調べられたりはしないさ」とタカをくくっているようだ。私もまた、帰路のJFK国際空港でのんびりと構えていた。だから、パスポートを眺めていた入国管理の職員が「おや?」という表情を見せた時には焦った。
 結局、何事もなかったが、まったく空港の職員というのは、なぜああも人の心をドキドキさせるのだろう。

医療保険は必須のはずだが……

 キューバ入国に必要なのはツーリスト・カードだけではない。2010年から観光客は、滞在中の医療費をカバーする医療保険に入っておかねばならなくなった。
 私は今回、日本からやってきた旧知のフォトジャーナリスト、川畑嘉文氏とともに旅をした。旅慣れている彼は、日本のキューバ大使館でツーリスト・カードを入手し、医療保険への加入も、大使館が指定する日系の保険会社で済ませてきた。
 一方、ニューヨーク在住の私は、普段から医療保険には未加入だ。キューバ入国のため新規に保険に入る必要があったが、調べてみると米系の保険会社ではダメだという。しかし、日系の保険会社をあわてて探す必要もなかった。ハバナの空港でキューバ国営の医療保険に入れるからだ。滞在1日に付き5ドルほど払えば良いという。
 だから私は、ついに到着したハバナ国際空港で、入国管理の職員が「保険は?」と聞いてくるのを待ち構えていた。私が彼女に提出したのは、パスポートとツーリスト・カードだけだった。本来は保険への加入証明書も見せねばならないのだ。
 彼女が何か言った。
 スペイン語が理解できない私は、医療保険への言及だと思い、英語で正直に「保険には入っていません」と伝えた。しかし、どうやら私の英語は通じていない。
 しばらく無言でいた彼女が「Go」と言った。ん? あれ?
 なぜだか私は、無保険のままキューバに入れてしまった。
 実は、この日のクバーナ航空ハバナ行きは機体不良のため出発が大幅に遅れ、私たちはカンクン国際空港で12時間近くも足止めを食らってしまっていた。ハバナ到着は深夜の1時過ぎとなり、入国管理の彼女もぐったりしていた気がする。「あ〜もういいかげん疲れた。もうヤダ、保険の処理なんて。もう今夜は面倒くさい。早く家に帰りたい。ちょっとそこの素敵な日本の殿方、もう行っていいわよ。だってあなたもお疲れでしょ? さあさあ Go Go」という気分だったのかもしれない。だとすると、ずいぶん人間的な社会主義国家だ。


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