ビバ・キューバ あなたも行ける禁断の国

文/細田雅大(Text by Masahiro Hosoda)
写真/川畑嘉文(Photos by Yoshifumi Kawabata)

Trinidad

首都ハバナにはない地方の魅力

 ビニャーレスで数日を過ごした私たちは、再びバスに乗り、今度は東へと向かった。約7時間を経て、ハバナのさらにずっと東、トリニダーに到着だ。スペイン植民地時代の街並が今に続き、18世紀キューバの風情をそのまま残す古都である。
 マイタという優しげな女性が切り盛りしているカーサに宿泊した。一泊14ペソ、朝食3ペソ、夕食7ペソで話がついた。料理の基本的な味付けは、キューバ料理に共通しているのだろうか、ビニャーレスでと同様、時にしょっぱすぎる気もする塩味だ。
 ぎらぎらと照りつける太陽の下、私と川畑氏は、ややデコボコの石が敷き詰められた古の区画を歩いた。シャッターチャンスは逃すまじという気迫で黙々と歩く川畑氏と異なり、私はつい誰にでも「ブエノス・ディアス(こんにちは)」と声をかけてしまう。すると誰もが優しい笑顔になり「ディア」と応じてくれる。南米コロンビアの友人に後で確認すると、カリブ諸国で話されるスペイン語では「s」の発音が省略されるらしい。だから「ブエノス・ディアス」は「ブエノ・ディア」となり、その応答も「ディア」となる。
 「細田さん、そんなに話しかけなくていいですって」と川畑氏は言ったが、私はついつい挨拶をしてしまうのだった。
 数日後、地方都市をさらに回るという川畑氏と別れ、旅を切り上げた私は、ハバナへ向かった。「もう3、4日は滞在したかったな」と思ったが、既に航空券を買っていたのでしょうがない。キューバ滞在の最終日は首都ハバナとなった。
 キューバに渡る前に立ち寄ったカンクンで、ハバナの悪評を何人かの日本人から耳にしていた。彼らによると「ハバナの人間は腐っていて、金儲けのことしか考えていない」のだそうだ。確かに地方都市との違いは大きかった。ビニャーレスやトリニダーでも、観光客を相手にする商売人が「葉巻は欲しくないか」と声をかけてはきた。しかし「ノー・グラシアス」(英語のノー・サンキューに相当)と言えば、ニコニコしながらすぐに引き下がってくれた。「グッド・ラック」と去り際に言ってくれる人までいた。
 しかしハバナには、そんなのんびりした雰囲気はなかった。まだ年端の行かない子供にまで「金を手に入れねば」という切迫感があった。モロ要塞という世界遺産の前を流れる運河で、年長者と一緒に魚釣りをしていた子供がいた。「写真を撮らせて」と頼むと、ポーズを取ってくれた。しかし、後でその子は私を追いかけてきて、親指と人差し指をこすり合わせ、金を要求した。金ではなくボールペンを渡すと、ちょっと不服そうな顔だ。運河に飛び込んで遊ぶ別の子供たちの一人は、私を発見するやいなや「1ペソくれない? くれないの? じゃあキャンディーは?」とねだった。
 そういう子供たちの様子を見ていた男性が苦笑しながら英語で話しかけてきた。商売人ではないと思い、話していると、「私は近くのベーカリーで働いているんだけど、あなたは空腹そうだから、パンを買いに来ないか」と誘う。いったい何人のハバナ人が、あの手この手で私に金を使わせようとしたことだろう。
 と書いたからと言って、私は彼らが嫌いなわけではない。好きか嫌いかで言えば、むしろ好きだ。なぜなら、根本のところで、正直だから。「腐っている」などとは間違っても思わない。でも、やはり疲れてしまう。だからまずは、ハバナ以外の地方都市がおすすめだ。

私が犯したもう一つの罪

 米国の永住権保持者として、私はキューバ国内で金銭の取引を行い、米国の法律に違反した。実はキューバからの帰路、もう一つ、別の罪も犯している。
 米国へ入国する際、私たちは税関申告書に記入する。氏名や生年月日、パスポート番号を書き込み、「果物、植物、虫などを持ち込んでいないか」「肉や動物などに関わる製品を持ち込んでいないか」「1万ドル以上の現金を持ち込んでいないか」といった項目をチェックしていくのだ。
 この申告書に「今回の米国到着以前に訪れた国」を書き入れる欄がある。
 私はまず「Mexico」と記入した。
 しかし果たして「Cuba」と書いて安全なのか……。
 申告書の最下部には「私は真実に基づいた申告を行いました」という一文があり、私はそこに署名しなければならない。「Cuba」と書かずに署名すれば、偽証罪を犯すことになるのではないか……。
 しかし私は書かなかった。
 もし何か言われたら、あ、忘れてました、と言って、とぼけてやれ。
 私はあっさりと、そう開き直ったのだった。

 最後に注意を。
 今回の報告は、読者の皆さんに「こうやれば大丈夫」と主張するものではないし、法律違反を促すものでもない。たまたま私は上手くいったが、トラブルが起きる可能性は常にある。あれから9カ月が経過し、状況が変化した可能性もある。また今回は、市民権と永住権保持者に焦点を当て、労働ビザなどで米国に滞在する日本人がキューバへ行く際の注意点には触れていない。
 どうか皆さんが、どんな情報であれ鵜呑みにすることなく、キューバへの旅を楽しまれますように。
 少なくとも私の場合、リスクに見合う、いやそれ以上に素敵な旅だった。


キューバの二重通貨制度

 キューバは二重通貨制度を採用しており、観光客が使う兌換ペソ(CUC/クック)とキューバ人が使う人民ペソ(CUP/クップ)を分けている。1CUCの価値は約1ドル。そして1CUCは約25CUPに相当する。本文中で「ペソ」とあるのは、すべて観光客用のCUCを指す。
 観光客は、CUCを使う観光客用の店で商品を買い、CUPを使うキューバ人のための店では買えないことになっている。しかし実際には観光客もCUPを使える。例えば、私と別れた後の川畑氏だ。「観光客用のレストランでスパゲティを食べると4CUC(約4ドル)。人民ペソの店だと、同じ味のスパゲティが5CUP(約20セント)。両者の格差は20倍です」とは彼の弁。CUPを使えば旅費を節約できるが、本来、外国人のためのものではない。節度を保ち、自分で責任が取れる範囲で利用しよう。

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細田雅大 (Masahiro Hosoda)

細田雅大 (Masahiro Hosoda)

ライタープロフィール

1966年、島根県の松江市生まれ。地元の高校を卒業後、上京して大学生となり、読書の楽しさを知る。大学を卒業した1991年からは、看護関係の出版社に勤務し、古き良き活版印刷における編集の仕事に携わる。しかし99年、「ここで出来ることは全部やった」と思えたので、米国ニューオーリンズに語学留学(という名の気分転換)。海外生活が性に合ったか、2001年からはニューヨークに居を移し「U.S. FrontLine」誌で編集&ライターとして勤務。2010年、またもや「出来ることは全部やった」と感じ、フリーランスに転身。現在は帰国し、主に日本語から英語への翻訳を生業としながら、「いつかまた取材の旅に出たい」と思う日々。

川畑嘉文 (Yoshifumi Kawabata)

川畑嘉文 (Yoshifumi Kawabata)

ライタープロフィール

千葉県出身。ペンシルベニア州立大学政治学部国際政治学科卒業後、本誌フロントラインに勤務。2001年9月11日、ニューヨークを襲った中枢同時多発テロの現場グラウンド・ゼロに、おそらく日本人として最も早く侵入し、シャッターを押した。その後日本に帰国し、撮影事務所での修行をへて、2006 年、フリーのフォトジャーナリストに転身。貧困や難民問題、自然災害などをテーマに、アフリカ、アジア、南米などの途上国で取材を続けている。2014 年4月、シリア難民の子供たちを撮った写真が、日本写真家協会コンテストの金賞を受賞した。著書に「フォトジャーナリストが見た世界:地を這うのが仕事」。

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