第53回 ボランティア活動

文&写真/寺口麻穂(Text and photos by Maho Teraguchi)

 愛犬ジュリエットを地元のアニマル・シェルターから引き取った後、「恩返しに」という思いで始めたのがシェルターでのボランティア活動でした。それまでは遠い世界だったシェルターでの仕事、ふたを開けてみれば10年以上続けていました。今回は自らの経験をもとにシェルターでのボランティア活動のあれこれをお話します。

共感性疲労(コンパッション・ファティーグ)

 アニマル・シェルターやレスキュー団体でのボランティア活動には誰もが陥りやすい落とし穴があります。①人間嫌いになる、②心労にかかる、③取り付かれた状態になるなどです。動物愛護関係の現場に居ると人間の一番醜い部分をこれでもかと目の当たりにします。自分が愛する犬たちが彼らのせいではなく人間の罪で苦しい思いをしているのを常時見るのは心が引き裂かれます。そこから極度の人間嫌いに陥り、動物とだけの世界を作るようになることも。また、その悲しい現実が知らず知らずにかなりの重いストレスになり精神を襲うことも。同時に「助けたい!」という気持ちが走り過ぎて取り付かれた状態になり、四六時中シェルターの犬たちのことしか考えられない状態に陥ることもあります。これらの症状はコンパッション・ファティーグ(共感性疲労)の一種で、こういう現場に居る人たちみんなが多かれ少なかれ経験することです。もちろん私自身も経験しました。高い理想を掲げると倒れそうになるので、小さいゴールを達成できればよしとし、できることだけすればよい…と言い聞かせて気持ちをコントロールするコツをつかみました。現実から目をそらさず、一人で抱えこまないように注意し、シェルター以外の生活とのバランスを上手くとることがコツだと思います。自分自身の心身のバランスが取れていないと他者のために役立つことは難しいと思います。まずは自分のケア。そして他者という順を忘れずに。

ボランティア活動は誰のため?

 私は犬と直接関わっていることが活動の必須条件でしたが、現場での仕事は精神的に厳しく、また肉体的に無理という場合もあるでしょう。そんな場合でも十分ほかの形で活動することが可能です。たとえば、料理が好きならば犬のビスケットを焼いて寄付する。裁縫が好きならば犬たちの寝具や防寒用のジャケットの製作をする。パソコンやデザインのスキルがあるなら、宣伝用のポスターやウェブサイトのプロジェクトを手伝ったりする。自分自身に負担にならず、楽しめて長続きし、また自分が一番活躍できる場所を見つけ出せばいいと思います。どこでどう活動している人が一番という競争ではなく、みんながそれぞれの持ち場で役目を果たすことがWin-Winへの鍵でしょう。

 ボランティアというのは自由がきく上に無料でいろんなスキルを学べて、また普段の生活では関われないような人たちとのネットワークもできるのでいろいろな特典があります。また、シェルターなどでボランティア活動をすると犬のボディーランゲージがより理解できたり、しつけのスキルも習得できたりします。それらを習得すると愛犬との関係がさらに深まることになります。

10年近く居たシェルターのボランティアの同志がお別れ会をしてくれました

10年近く居たシェルターのボランティアの同志がお別れ会をしてくれました
Photo © Maho Teraguchi

 長年の経験から見て、日本人のボランティア活動への関わりは低いように思います。ボランティア活動という歴史が比較的浅い日本社会ですが、アメリカ社会のボランティアの場で日本人がどんどん活躍することを期待します。いずれ日本に帰国するなら、こちらでの貴重な体験がきっと役立つと思います。私は恩返しの意味で始めたボランティア活動から自分の可能性と能力を発見することができ、人生が変わりました。もしかしたらボランティア活動をすることによって自分自身を再発見するかもしれませんよ。

次回は、私自身も憧れる「多頭飼い」をお話します。お楽しみに!

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

寺口麻穂 (Maho Teraguchi)

寺口麻穂 (Maho Teraguchi)

ライタープロフィール

在米27年。かつては人間の専門家を目指しサンホセ州立大学・大学院で文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人では「Doggie Project」というビジネスを設立。「人間に100%生活を依存している犬を幸せにすることが人間の責任」を全うするため、犬の飼い主教育やトレーニング、問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し活躍中。

プライベート/グループレッスン、講習会のお問い合わせは:www.doggieproject.com
ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

注目の記事

  1. photo by  pelican
    JRグループは観光目的で日本を訪れる外国人旅行者が、日本中を鉄道で旅行できる「ジャ...
  2. Photo by Izumi Hasegawa / HollywoodNewsWire.co
     スコット・イーストウッドの存在を初めて知ったのは、2013年の映画「Texas Chain...
  3. 5c1c81e6570946ed5e0fcac6c5386683_s
     アメリカのトップ1%(実質的には0.1%)による富の支配が騒がれるようになってから、随分経...
  4. nfd
    Canada オーロラベルト直下イエローナイフ 幻想的なスペクタクルショー  オー...
  5. 「Quivira Vineyards and Winery」のロゼワイン。セント・へレナ山を遠くに望むPhoto © Mirei Sato
     ソノマといえば、ナパと並んで、北カリフォルニアのワインカントリーの雄。オークランドに5年住...

デジタル版を読む

610cover フロントライン最新号
ページ上部へ戻る