DAY 5
ブライスキャニオンから西へ2時間。今回の旅のクライマックス、ザイオン国立公園に入ると小雨が降ってきた。
切り立った崖、巨大な一枚岩。写真で目にしたザイオンがすぐそこにあるのだが、頂きには霧が立ちこめていてよく見えない。
ザイオン・ロッジからシャトルに乗り、レインコートをかぶって歩き出す。雨が強くなるにつれ、山のあちこちから岩を伝って水が流れ出した。細い流れが集まって一筋の滝になる。川の流れも早くなり、岩場に生えたコケやツルは、冬を前に最後の輝きを見せるかのように緑の勢いを増す。
ザイオンの主な楽しみ方は3つ。川伝いに細い峡谷を歩くナローズ、最後は厳しい登山になるエンジェルズ・ランディング、乗馬で楽しむエメラルドプールだ。
この日は結局、すべてが中止になった。川の水かさが増して鉄砲水の危険があるということだった。
年間300万人が訪れるユタで一番人気のある国立公園だけあって、悪天候でも大勢の人がいた。せっかくここまで来たのに…。思いは皆同じだったが仕方がない。旅をしていればこういうこともある。
岩場ではしゃいで写真を撮る子供たち、杖をついて果敢に川を渡るシニアハイカーたち。そんな元気につられてか、リスも顔を見せた。
DAY 6
一路ソルトレークシティーへフリーウェーを北上する。
ユタの旅で感じたのは、人間がつくるものはすべて自然のどこかにすでに存在しているのだろう、ということだ。私は石の大きな「つくりもの」が好きで、エジプトのアブシンベル大神殿や、サウスダコタのマウントラシュモア、崖に彫った石仏、そういうものに心惹かれて旅することが多い。そんな場所ではたいてい「光のショー」や「ジオラマ」といった演出がある。
でもコロラド川で見た一枚岩はそのままでもう「神殿」であり、モニュメントバレーには空の色や雲との掛け合いだけで演出は不要だった。
大自然を前にして畏怖の念を抱き、身をゆだねた先住民。ランドスケープに救われ癒された旅人。ほろ馬車1台で新天地を求め峡谷を進んだ宣教師たち。同様に、大自然に挑み、爆破してダムをつくったりウランを掘りあてて原子力に作り替えたり、そういう人間も沢山いた。
コロラド川が何万年もかけてつくり出した風景は、そのまま私たち人間の歩みであり、アメリカという国の歴史とストーリーを刻んでもいるのだと思った。
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