空と雲と大地がひとつになる。大平原を、プレイリードッグがきゃっきゃと走り、バッファローが威嚇のうなりをあげて駆け抜ける。山に刻んだ大統領の巨顔、岩の中によみがえるラコタの英雄——。
サウスダコタ州南西端にあるブラックヒルズには、アメリカに憧れる人ならいつか行ってみたいと思わせる、記憶にしみこんだ「アメリカーナ」の遺産と風景が詰まっている。
小都市ラピッドシティーを発着点に、マウントラシュモア国定公園、クレイジーホース記念碑、カスター州立公園、バッドランズ国立公園などを巡るロードトリップを紹介する。(*注:情報は掲載誌発行時点のものです)
Day 1
薄晴れの午後、ラピッドシティーの空港に降り立った。レンタカーをピックアップして走り出す。
空気が澄んでいる。雲が、ふかふかした綿のように、ふわふわ遊ぶヒツジの群れのように、いくつも浮かんでいる。アメリカはいろいろ旅したけれど、こんなに低い空とひらけた大地は見たことがない。プレイリー(prairie)に来たんだなあと実感。空港を出て数十分走っただけなのに、なんだかもうここが好きになっていた。
人口7万人弱のラピッドシティーは、どこかファンキーな街だ。マウントラシュモアだけではもの足りず、歴代大統領43人の等身大ブロンズ像をつくり、ダウンタウンにずらりと並べてしまった。
息子とたわむれるケネディ、思わず握手されてしまいそうな勢いで迫ってくるクリントン、なんの悩みもなさそうに笑うブッシュ。特徴やイメージをよくつかんでいる。
ダウンタウンには、開拓時代の名残を感じさせる古時計や、クーリッジをはじめ6人の大統領が泊まった老舗ホテルがある。
懐古気分でぶらぶら歩いていると、強烈な色彩が飛び込んできた。1本の細い路地に、ミューラル(壁画)がぎっしり描かれている。そこだけサンフランシスコかブルックリンかと思うような迫力だ。
ゴミ箱にはってあるポスターが目を引いた。「ブラックヒルズは売り物じゃない」と書いてある。ブラックヒルズを聖地として守り暮らしてきたラコタ先住民(スー族)は、金鉱目当てに条約を破りブラックヒルズを奪った連邦政府に対して、今も土地の所有権をめぐる闘いを続けている。
ダウンタウンのギャラリーには、ラコタをはじめ、グレート・プレーンズ(ロッキー山脈の東に広がる大平原)で生きてきた先住民(俗称Prairie Indians)の工芸や装飾品が並ぶ。はいだバッファローの皮に絵や模様を描いたものもある。使われている色彩は、砂漠気候や赤土の大地に生きる部族のものとは違って、やさしくのびやかだ。
ギャラリーではバッファローの生肉まで売っている。ビーフより脂肪分が少ないので「健康志向」のアメリカで最近人気なのだと、ギャラリーの人が教えてくれた。
ディナーは、地元で評判のステーキハウスへ。すすめられるまま、バッファローの肉をミディアムレアで焼いてもらう。やわらかくてジューシー、これなら毎日食べてもいいと思う、感動の味だった。
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします