シリーズアメリカ再発見⑩ サウスダコタ
国立公園とバッファロー大平原をゆく

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

Photo © Mirei Sato

マウントラシュモアへ
Photo © Mirei Sato

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Day 3

 サウスダコタは知らなくても、マウントラシュモア国定公園は世界中の人が知っている。

 建国の父ジョージ・ワシントン、独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソン、南北戦争を経て国を統一したエイブラハム・リンカーン、20世紀のアメリカを超大国に押し上げる基礎をつくったセオドア・ルーズベルト。4人の大統領の頭部を岩山に彫った記念碑だ。
 映画の舞台、愛国心をあおるポスターや、大統領選挙報道のバックグラウンドにも使われる。

 実際に仰ぎ見ると相当の高さにあることが分かる。465フィート。ニューヨークの自由の女神像を3つ重ねたより高く、ギザのピラミッドとほぼ同じだ。
 入り口の門にはアメリカ国旗や各州旗が掲げられていて、その先のテラスに観光客が集まっていた。「WOW」「はるばる来てよかった」と声が上がる。

 地元の歴史家が「有名人の巨像をつくれば観光客を呼べる」と発案し、1941年に完成した。
 太陽が通る道から光と影の角度を計算して、天候や見る位置によって表情やムードが変わることまで考えて彫ったという。確かに、空の曇り具合や場所によって、4人の顔は威厳に満ちたようにも苦悩の表情にも見える。

1927年に連邦政府の資金で一大事業が始まった。当初は上半身を彫る予定だったが、大恐慌で資金が不足し顔だけになったPhoto © Mirei Sato

1927年に連邦政府の資金で一大事業が始まった。
当初は上半身を彫る予定だったが、大恐慌で資金が不足し顔だけになった
Photo © Mirei Sato

 4人の中にジェファーソンが選ばれたのは、独立宣言以上に、領土を拡大したことが評価されたからだ。
 ジェファーソン政権は、勝手な条約を結んで先住民から豊かな土地を奪い、居留地に強制移住させ、抗うものは皆殺しにするとした。続く政権もそれに従い、西部開拓が進んだ、という歴史がある。

 ラコタ族を追い出したブラックヒルズに、白人大統領の偉業を刻む――。栄光と偽善。この二面性こそアメリカーナの遺産だ。

 ラシュモアから西へ約30キロのところに、アンチ・ラシュモアともいえる巨像がつくられている。連邦軍に殺されたラコタの戦士をモデルにしたクレイジーホース記念碑だ。

 「レッドマンにも英雄がいる」。ラコタの部族長らの依頼を受けて、65年前にコルチャック・ジオルコウスキという一人の男が建設を始めた。
 未完のまま亡くなったが、子供たちが継承して、岩山にダイナマイトを仕掛けては少しずつ彫り込んでいる。

クレイジーホース記念碑Photo © Mirei Sato

クレイジーホース記念碑
Photo © Mirei Sato

 「My lands are where my dead lie buried」(私の死骸が横たわるところ、そこが私の土地だ)という言葉を遺したとされるクレイジーホース。
 記念碑は、馬にまたがり、ブラックヒルズを指差すデザインだ。完成すれば、高さも大きさもラシュモアをしのぐ。

 皮肉なことに(驚きではないが)、ラコタの人たちの多くはこの巨像を苦々しい思いで見つめている。
 そもそも部族の総意のもとに始まった計画ではなく、彼らは大統領のような一人の統治者をもたず、政治家を英雄視もしない。何より、彼らが求めているのは聖地ブラックヒルズの正当な返却であって、その山を爆破して先祖の顔を彫ることではないからだ。

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