シリーズアメリカ再発見⑫ 南北戦争150周年
ゲティスバーグ~モンティチェロ 霊場街道をゆく

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 1863年7月1日。並行する尾根に沿って陣取り、にらみあった南軍と北軍の戦闘は、3日間続いた。死者・行方不明者5万1000人。真夏の草地は兵士の遺体で埋まった。4カ月後、リンカーンはそこに立ち、「新しい自由の誕生」「人民の人民による人民のための政治」を宣言した。
 アメリカ史上最多の犠牲者を出したゲティスバーグの戦いと大統領演説は、アメリカが国家形成と富の蓄積を頼った黒人奴隷制度に決別する、大きなターニングポイントになった。今もその解釈と自由の拡大(または限界)をめぐって、アメリカ人の心を高ぶらせる。
 今年はその150周年にあたり、現地でさまざまな記念行事が行われている。ペンシルベニアからバージニアへ、南北戦争の古戦場が点在する史跡街道「ルート15」を旅した。

 

戦場に残る独特の「Virginia Worm Fence」。ジグザグに木を積み上げてつくった Photo © Mirei Sato

ゲティスバーグの戦場に残る独特の「Virginia Worm Fence」。ジグザグに木を積み上げてつくった
Photo © Mirei Sato

To Gettysburg
ゲティスバーグへ

 ペンシルベニアの東南端から、メリーランド、ウェストバージニアの一部を抜けて、バージニア北部へ続く街道「ルート15」。その周辺地域は、首都ワシントンDCの巨大なベッドタウンだ。政治家やCEO、芸能人、スポーツ選手らが豪邸を構える。

 果樹園やワイナリー、ゴルフ場が並び、狩猟や乗馬が盛んだ。夏になればキャンプ客で混み合い、ポトマック・リバーをDCのタイダル・ベイスンからカヤックで下ってくる人さえいる。秋の紅葉は、ニューイングランドに負けず劣らず美しい。

 そんなのどかな光景からは想像がつかないが、ここには無数の古戦場があり、アメリカの建国と統一の時代に犠牲になった多くの魂が眠っている。押し寄せる開発の波の中、歴史を忘れまいと2008年、4州の協力のもと「The Journey Through Hallowed Ground」が誕生。一帯が「国家遺産」に指定された。

 ゲティスバーグを北端にして、第3代大統領トーマス・ジェファーソンの邸宅モンティチェロまで、全長180マイル。ルート15は「建国史回廊」と呼ぶのにふさわしい。

◆  ◆  

 南北戦争は大小含めて2000以上の戦いがあったが、ゲティスバーグほど保存状態がよく美しい古戦場はほかにない。街に入るとすぐ、石碑や墓碑が目についた。最初はカメラを向けていたがすぐにやめた。何しろ、6000エーカーの広大な国立公園に1300以上もの碑があるのだ。

 ビジターセンターでまず、サイクロラマを見た。爆音と照明が激しい戦闘をリアルに再現している。その後、ゲティスバーグ商工観光会議所のカールさんの案内で、戦場(バトルフィールド)へ向かった。
 荒涼とした野原を想像していたら、裏切られた。緑が茂り、花も咲き、観光バスや修学旅行生でにぎわっている。

 西側の尾根にあたるセミナリー・リッジへ行く。山を越えてやってきた南軍のロバート・E・リー将軍と7万5000人の兵士が、ここに前線を張った。北軍はジョージ・G・ミード将軍の指揮下、9万7000人の兵士が東側の尾根セメタリー・リッジを守った。両軍の距離はたった1マイル。視界を遮るものもないから、敵将の姿が肉眼で見えたのではないだろうか。

 初日に南軍の猛攻に遭って大勢の捕虜を出した北軍は、2日目にリトル・ラウンド・トップという小高い丘を攻撃され、持ちこたえるのに必死だった。3日目は両軍ともに大砲の撃ち合いが続き、煙でほとんど何も見えなくなった。中央突破を狙った南軍の一隊は、北軍の最前線に達したが、作戦は失敗。広野に突撃した南軍の歩兵たちは銃弾を浴び、50分で6800人が死ぬという壮絶な結末を迎えた。

 カールさんによると、歩兵は二人一組で前後になって進んだ。敵の前線はすぐそこだが、「時代劇」のようにわーっと雄叫びをあげて走ったわけではなく、一歩一歩ゆっくりと。銃弾を装填するのに30秒はかかるから、交代で撃ちながら進む。後ろの兵士は前の兵士の肩越しに銃を構える。前の兵士は盾のリスクを負うだけでなく、耳元で引き金が炸裂するという大変さだ。
 

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