不動産エージェント
トーマス・アコ

文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)

 高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

「不動産業転身直後に新人賞受賞 頑張れば結果につながるという自信に」

 1973年に留学目的で渡米しました。仕事は日系広告代理店勤務の後、別の代理店に20年勤続し、マーケティングやプロモーションを担当していました。クライアントはほとんどが日系企業でしたね。しかし、バブルの時代が終わって日系企業が広告費を削減するようになり、経営が厳しくなったので、ピンチをチャンスに変えるために以前から興味があった不動産業への挑戦を決意しました。不動産売買のライセンスは1987年に一度取得していましたが、2002年に米系のショアウッド不動産の135時間研修コースを受講、ライセンスを取得し直しました。

 転職した12年前、オフィスに日本人エージェントは他にいなかったので、不安はありました。そこで、アメリカ人がよくやるように、不動産ビジネスを始めたことを家族、親戚、友人に伝えることで、身内に家を買ってもらう作戦に出ました。私の最初のお客様は既に成人していた私の娘でした。その後、トントン拍子に3軒売れた時、「この仕事、私にもできる」と実感が湧きました。最初の頃は朝の8時から夜の7時くらいまでオフィスに出てきていました。「ここで寝泊まりしているの?」と言われたほどです(笑)。

 それでもオフィスにいると役立つ情報が入ってくるので、ひとりで家に籠っているよりも格段に仕事が捗ります。物件に関する悩みや疑問は、他のエージェントに相談するのです。すると彼らは経験をもとにいろいろなアドバイスをしてくれます。仲間は時にライバルにもなるのですが、日頃の協力関係の維持はとても重要だと思います。

 最初の年に会社から「ライジングスター(新人賞)」をもらえたことは大きな励みにもなりました。また、翌年には所属エージェント400人中、売買件数が2位になったことで、「アメリカでは頑張れば結果につながるんだ」と自信がつきましたね。

顧客のニーズやスタイル把握が鍵

 それでも苦労しているのは、会話のウィット。アメリカ人が繰り出してくるウィットに富んだ会話では、一緒に笑えても、自分も同じような返答をすることがなかなか難しいのです。時々、超高級住宅を扱うエージェントの仕事ぶりや生活を追うリアリティーテレビ番組「Million Dollar Listings」を見て、「そういう言い方をするのか」とか交渉時の切り返しなどを勉強しています。でも、あれはあくまでテレビなので現実と違う、と思うこともありますが。

 大変だったのはサブプライムローン問題が起きた後、2008年から09年にかけての時期。オフィスのエージェントも半数まで減りました。皆、コミッション(通常、物件価格の5、6%。それをセラーとバイヤー両方のエージェントで折半する)で食べているので売れなければゼロです。そのような中でも続けることができたのは、うまくいかない時も諦めずに、新人時代を思い出しながら自分を奮い立たせていたからかもしれません。モチベーションを高めるセミナーも必要な時は参加しています。

 この仕事のやりがいは、お客様に家の鍵を渡す時に実感します。そして御礼の手紙を受け取る時には言葉にならない喜びを感じます。また「You’re the best(あなたは最高です)」と言われるととても嬉しいです。何週間も、時には何カ月も一緒に家を見て回りますから、その人のニーズやスタイルも把握できるようになります。その結果、完璧な物件を見つけたと知らせる時には、いつもドキドキしますね。

 アメリカでは不動産の買い替えは一般的なので、同じお客様との縁も長期間つながっていきます。今、交渉の最中のお客様は3軒目の買い替えです。信用してもらえれば必ず次の時も戻ってきてくれます。

 この仕事のいいところは、自分で時間の管理ができることです。朝はビーチでのウォーキングや庭の手入れ、メールをチェックしてからオフィスに出かけたり、アポに行ったりします。また、年齢も関係ないですし、かえって年齢が高い方が経験もあるということでお客様に安心してもらえるようです。不動産業に転身して本当に良かったと思っています。
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My Resume
●氏名:トーマス・アコ(Ako Thomas)
●現職:不動産エージェント(ショアウッド不動産所属)
●前職:在米日系広告代理店マーケティング職
●取得した資格:State of California Department of Real Estate Salesperson License
●ビジネス拠点:ロサンゼルス郊外サウスベイ及びビーチエリア
●その他:住宅からアパート建築まで、不動産投資全般のコンサルティングに従事。家やガーデン見学が趣味。
●ウェブサイトなど:www.shorewood.com

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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