シリーズ世界へ! YOLO⑭
Pura Vida! コスタリカ 前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年10月5日
トートゥゲロの海岸は、絶滅の危機にあるアオウミガメが、西半球で最も多く巣を作る場所として有名だ。地名も、スペイン語でカメを意味する「tortuga」からきている。毎年、産卵期(7〜10月)になると夜中にカメがやってきて、30キロの海岸沿いに3万もの巣ができる。
カメの巣作りと産卵の様子を見るナイトツアーに参加した。これはトートゥゲロで観光客に一番人気がある。浜辺に人が多すぎるとカメは警戒してまた海へ戻ってしまうので、観光客は数人ずつのグループに分かれる。カメを刺激しないよう、懐中電灯の使用や写真撮影は一切禁止。洋服も黒や茶色しか着てはいけない。レンジャーがカメを見つけるまで、海岸の裏の道に隠れて待つ。
1時間以上じっと待っただろうか。合図に従って砂浜へ出る。月明かりだけを頼りに目を凝らすと、荒れた海、打ち寄せる波の中を巨大なカメがまさに上陸しようとしているところだった。体長は2メートルぐらいか。カメは砂浜の奥の茂みまで進むと、砂を深く掘って体をうずめた。レンジャーがカメの片足を持ち上げる。その隙間から覗くと、ポトンポトンと濡れたピンポン球のような白い卵が落ちていくのが見えた。
1度に千個以上の卵を産むが、生き残るのは5個ぐらいしかない。寿命は長くて120年。メスは30歳まで妊娠できないが、その後は年をとるほど卵を多くはらむことができるという。カメ版「女の一生」は、かなりつらそうだ。しかし、すごいことにカメは自分が生まれた場所を覚えていて、世界の海を泳いだ後も、妊娠するとちゃんと故郷に戻ってきて出産するという。
TVのドキュメンタリーでしか見られないような産卵光景に感動したが、分娩室で何十人もの見知らぬ他人に取り囲まれている「妊婦」の気持ちを考えると、これはプライバシーの大侵害ではないか、という気もしてしまった。
レンジャーに違和感をぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「大海原を泳いできたカメは疲れ切っていて、そんなことまで気にしていないよ。何よりも、観光客がこのツアーに払うお金が(1人30ドル程度)、カメの生態研究や保護活動を支えているんだ」
ひと昔前までアオウミガメの密猟者が後を絶たず、最近は卵に「バイアグラ効果」があると信じて盗みにくる人がいるそうだ。その監視のためにもツーリズムによる収益が必要なのだという。
「大悪」を食い止めるために「中悪」を奨励するという、人間の勝手なロジックがちょっと悲しかった。
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