シリーズアメリカ再発見⑯
ハリウッドサイン90歳

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

もとは「ハリウッドランド」というサインだったPhotos courtesy of the Hollywood Sign Trust and HollywoodPhotography.com. All Rights Reserved.

もとは「ハリウッドランド」というサインだった
Photos courtesy of the Hollywood Sign Trust and HollywoodPhotography.com. All Rights Reserved.

~Life of the Hollywood Sign~
脚光、転落、しぶとく復活…
老い知らずの大女優

建設中のハリウッドサインPhotos courtesy of the Hollywood Sign Trust and HollywoodPhotography.com. All Rights Reserved.

建設中のハリウッドサイン
Photos courtesy of the Hollywood Sign Trust and HollywoodPhotography.com. All Rights Reserved.

 ハリウッドサインが誕生したのは1923年。最初は13文字で「HOLLYWOODLAND」だった。不動産業者が、新しく造成した高級住宅地ハリウッドランドを宣伝するために、2万ドル(当時)かけて建設。薄い金属板を白く塗ってつくったアルファベットをヘリコプターでつり下げるという、大掛かりな作業だった。電球も4000個つけた。

 住宅が売れたら取り壊すはずだったが、「西海岸のシンボル」として観光客がサインを目当てに訪れるようになり、そのままに。49年、修理が必要になったのをきっかけに、ハリウッド商工会議所が市と協力して「LAND」を撤去。現在の9文字になった。

 サインの人生はけっこう多難で、地震や地滑りを体験。70年代にはシロアリに襲われて「O」の文字が崩壊、崖に転がり落ちてしまった。放火で「L」が燃える、という事件もあった。
 市は新しいサインを作り直すしかないと判断したが、費用は25万ドル。とても無理だ——。断念しかけた時、救いの手を差し伸べたのが、雑誌「プレイボーイ」の創刊者ヒュー・へフナーだった。「プレイボーイ・マンション」のお屋敷で派手な寄付金集めのパーティーを開き(もちろんバニーガールもいっぱい)、ハリウッドの大物らが1文字ずつスポンサーに名乗り出た。

Photos courtesy of the Hollywood Sign Trust and HollywoodPhotography.com. All Rights Reserved.

Photos courtesy of the Hollywood Sign Trust and HollywoodPhotography.com. All Rights Reserved.

 78年11月、真新しいサインが登場。お披露目の模様はテレビで生中継され、6000万人が見たそうだ。

 これで安泰かと思いきや、2010年、投資会社がサインのすぐ横の土地を買って「住宅を建てて切り売りする」という衝撃的な計画が明らかになる。実はサインの西隣りの土地は、かつて大富豪のハワード・ヒューズが、恋人の女優ジンジャー・ロジャースと暮らす家を建てるつもりで買っていた。それが投資会社の手に渡り…。
 土地を買い取ってサインを守るには125億ドルが必要だ。またもヘフナーが先頭に立ち、フェイスブックで大々的なキャンペーンを展開。日本を含めた世界中のファンから寄付が集まり、土地はすべてグリフィス・パークの一部として保護されることになった。サインは栄えある「国定歴史建造物」(National Historic Landmark)の認定も受けた。

 昨年10月、すべての文字が、最新の白いペンキで塗り直された。「フェイスリフト」をバッチリ終えて、90歳の誕生日をめでたく迎えたというわけだ。

「同期」の90歳の誕生日を祝うボブ・バーカー(左から2人目)Photo © Mirei Sato

「同期」の90歳の誕生日を祝うボブ・バーカー
(左から2人目)
Photo © Mirei Sato

 今年9月19日、ハリウッドのヒップなホテルで、サインの90歳を祝うパーティーが開かれたが、集まった面々には「高齢セレブ」が多かった。司会役としてパーティーを仕切ったのは、やはり今年90歳になるボブ・バーカー。アメリカの長寿ゲーム番組「The Price is Right」の元ホストで、ミス・ユニバースやミスUSAの司会も務めた人だ。
「私とハリウッドサインには、1923年生まれということ以外にも、幾つか共通点がありましてねえ。あちらは『修復』を重ねてますが、私も何度かやっておりますから」と挨拶して、笑いをとっていた。

 サインを管理する非営利団体「ハリウッドサイン・トラスト」のクリス・バウムガート代表は、「山あり谷ありを経験しながらも、夢を追いかけ、エンターテインメント界のトップの座を射止めた」とサインを表現した。

 確かに、サインの歴史を振り返ると、しぶとい女優の姿が見えてくるようだ。
 広告モデルとしてデビュー、思わぬ人気でスターに。落ち目になると「メークオーバー」で、減量に成功。容姿と体調が崩れ出し、いよいよ終わりかと思いきや「プレイボーイ」で大復活。出演した映画は150本以上。90歳の今は、フェイスリフトとボトックスを欠かさない——。

 Bring your dreams to Hollywood, give it your best, and you too will make it.

 ハリウッドサインは、成功を夢見る無名の若者たちと、ライムライトを浴び続けようと必死な元若者たちにとって、これからもシンボルであり続けるのだろう。

The Hollywood Sign Trust

www.HollywoodSign.org
ハリウッドサインのイメージ管理、修理、清掃、保存などをする非営利団体。ウェブサイトで、サインの歴史や、鑑賞スポット、サインに近づく際の注意事項などが読める。

1 2 3 4

5

6

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 今年、UCを卒業するニナは大学で上級の日本語クラスを取っていた。どんな授業内容か、課題には...
  2. ニューヨーク風景 アメリカにある程度、あるいは長年住んでいる人なら分かると思うが、外国である...
  3. 広大な「バッファロー狩りの断崖」。かつて壮絶な狩猟が行われていたことが想像できないほど、 現在は穏...
  4. ©Kevin Baird/Flickr LOHASの聖地 Boulder, Colorad...
  5. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  6. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  7. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  8. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
ページ上部へ戻る