シリーズアメリカ再発見㊲
ニューオーリンズ
水と食と生と死と 〜前編

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

Photo © Mirei Sato

ジャズ発祥の地、コンゴ・スクエアにある彫刻
Photo © Mirei Sato

 

 ニューオーリンズは、私にとって特別な場所になったが、そのあとは、なぜか足が向かなかった。行きたくないわけではないのだけれど、「初恋の人」にも似て、会ってみたいような、会わずに思い出はきれいなままでとっておきたいような……。
 ハリケーン・カトリーナも、私の足を重くした。大切なものがなくなっていたら……? そんなこんなで、再訪するまでに、20年が過ぎてしまった。
 久しぶりのニューオーリンズ。思い出の土手に行ってみた。土手も線路も踏切も、まだあったが、きれいに舗装され、「ムーンウォーク」という名前がついていた。マイケル・ジャクソンとは関係ない。地元の政治家の名前(ムーン)からとったらしい。
 ミュージシャンもいた。あんなに格好よくはなく、ベンチに腰掛けて観光客からのリクエスト曲を弾いていたけれど。
 一帯は再開発で整備され、川沿いに彫刻が並び、散策しやすくなっていた。フレンチ・クオーターの端にある「リバーウォーク」は、昔は、映画「ペリカン文書」のロケ地として有名だった。大きな広場に小さなフードコートがあって、ワニの串刺し肉をフレンチフライやハンバーガーと一緒に注文したのを覚えている。
 その建物は消えて、今はアウトレット・ショッピングモールの建設が進んでいた。カトリーナ復興プロジェクトの目玉の一つだそうだ。
 ニューオーリンズに限らないが、思い出のある場所を久しぶりに再訪するとき、何が変わり、何が変わらないかをはっきり感じとるのは、なかなか難しいと思う。一番変わったのは、自分なのかもしれないし。

◆ ◆ ◆

 この夏、ニューオーリンズは「カトリーナから10周年」を迎えた。8月29日には、市をあげて記念式典が予定されている。
 街にはメディアが押し寄せて、連日、悲劇を振り返り、復興ぶりを強調し、希望と課題を喚起する報道が流れるはずだ。
 同時に、こうした式典を開く側からは、これを節目にもうカトリーナはいいだろう、忘れて前に進みたい、という苛立ちも感じられる。
 「復興」の尺度を測るのも、難しい。誰のための復興か。何を記憶し、とどめるのか。再建の名のもとに投資が入り、更地の上に今まではなかったものができていく。
 こうして「復興」を遂げたとき、その土地に代々住み、文化をつくり支えてきた人たちは、もうそこには住めなくなっている。災害があぶりだした深刻な格差の問題は、がれきとともに片付けられ、忘れ去られようとしているのではないか。
 一方で、カトリーナの「ツアー」は盛況だ。大手のバスツアーなら、どこでもやっている。
 といっても、何を見るかといえば、ブラッド・ピットが支援して建てた家だとか、CNNによく映った橋だとか。カトリーナの爪痕というよりは、遠くて安全なところからテレビで見たイメージの残像を探す、という感覚に近い。
 ただ、目をこらせば、爪痕は見えてくるし、聞けば、人は語り出す。
 ニューオーリンズ国際空港があるメタリン(死の街、という意味)は、海抜から6〜8フィートも低い。そこからニューオーリンズの市街地へ向けて5〜6マイル走るとカナルに着く。このあたりは、カトリーナの被害が大きかった。
 名門エグゼビエー大学は10フィートの水につかった。たまたま空港からのシャトルに乗り合わせた学生を寮に降ろすので、車がキャンパスの中を通った。大学施設の主な建物は補修されていたが、学外の周辺には、ベニヤ板を打ち付けたままの空き家があった。
 フリーウエーからは、新しい刑務所が見えた。シャトルの運転手さんは「あれはカトリーナの2年前に建てたばっかりだったのに、被害が大きかったからと、すぐまた新しいのができたんですよ」と言う。「あそこの橋が囚人たちが集められて放置された場所ですよ。テレビで見たでしょう? ヘリコプターで運び出されるまで1週間かかりました」
 刑務所が新設される一方で、住居は朽ち果てる。復興マネーでおしゃれな街へと変貌を遂げる地区がある一方で、ローワー・ナインス・ワードのような場所では貧しい住人たちが故郷に戻れないままでいる。

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