第47回 地域差が大きい現地校

文/松本輝彦(Text by Teruhiko Matsumoto)

 「アメリカでは地域により学校の教育が大きく違う」と、日本から来た保護者は驚かれます。その主な理由である「学校教育費」の影響について考えてみましょう。

学校教育費

 全米の公立学校で学ぶ児童生徒1人当たりの年間の学校教育費は全米平均で約1万1千ドルです。この費用の出所を全ての州の平均でみると、連邦(国)政府10%、州政府45%、市町村45%がおおよその割合になっています。その教育費の負担割合の大きい州と市町村の違いにより学校教育費に大きな差が出ることがわかります。
 まず、州ごとの学校教育費を見てみると、その金額は6千5百ドルから2万ドルと大きな差があります。この差が生じる原因としては、それぞれの州の経済状態による税収の違い、またその州の教育に対する熱意の差などが考えられます。しかし、どんな原因があるにしても、州により児童生徒1人当たりの教育費に3倍もの違いがあると、その子ども達が受ける教育に質量ともに大きな差が生じることは確実です。
 次に市町村(コミュニティ)による教育費の違いについて考えてみましょう。実は、市町村の学校教育費は、例えば住宅価格の1%というように決められている、その地域の住宅に課税される固定資産税が主な財源となっています。アメリカでは、日本とは比べものにならないくらい、個人住宅の値段の差が地域により大きくなっています。それに比例して市町村による固定資産税の税収金額が大きく異なり、その違いが教育費の金額の差となって表れます。簡単に言うと、敷地の広い高額の住宅が多く並ぶ地域では子どもの数も少ないので、それ以外の地域の学校よりも、児童生徒1人当たりより多くの教育費が使えます。この差が学校区間、時には学校単位での教育費の格差となり、校舎・設備・教員数・教育内容などの差を生みます。

コミュニティと学校

 アメリカでは、住宅を買い求める時にその地区の学校の優劣が大きな判断の要素となります。たとえば、州の統一試験の学校や学校区ごと成績や評価の一覧表を、不動産業者が購入希望者に示したりします。
 子どものいる家庭ならば、子どものために教育のしっかりした学校の通学区域内の住宅を探し求めます。一般的に、学校の評判が高い地域では、より良い教育を求める高収入の家族が増えて、さらに家の値段が上がることになります。その住宅価格の高騰が固定資産税に反映し、その市町村が使える教育費が増えることになります。この好循環が、益々評価の高い学校を生むことになります。
 さらに、この地域に住む子育ての終わったご夫婦の立場から考えてみましょう。この人たちの家の値段が下がると財産が目減りして、老後の生活設計に深刻な影響が出てきます。自分の家の不動産価値を下げないためには、地域の学校の質を下げないことです。もう子どもはいなくとも、地域の学校の現状に無関心でいられません。学校区理事の選挙にも真剣に投票しますし、地域の学校の動向や、そこに通う児童生徒の様子にも注目します。
 このようにアメリカでは不動産の価格と地域の学校教育が直接経済的なかかわりを持っています。地域住民全てに関わる学校ですので、地元企業・商店の金銭や物品の寄付・ボランティア作業への協力などが盛んです。そして、これらの協力も地域による学校格差の一因にもなっているのです。コミュニティと学校がひとつとなり共存・共栄しようとしているのです。それがアメリカの学校教育の特徴です。

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松本輝彦 (Teruhiko Matsumoto)

松本輝彦 (Teruhiko Matsumoto)

ライタープロフィール

海外・帰国子女教育カウンセラー。北米の日本人の子どもの教育サポートに30年以上携わる。最近は、北米の保護者向けの教育講演会・情報誌・インターネットを通じての教育情報の発信や教育相談を中心に活動。また、北米の子どもたちが現地校で身につけている「宝(アカデミックスキル)」の教育を日本の学校で広げるために、日本の中学・高校・大学の授業や講演会も活発に行っている。

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