第159回 TPPについて思うこと ①

文/日比野泰(Text by Hiroshi Hibino)

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の合意がいよいよ近いという報道がされています。TPPについては、ご承知の方も多いかとは思いますが、一応念のため簡単に補足すると、関税の撤廃や、各国の様々な分野での安全基準や規制やルールの統一などにより自由貿易を推進する協定で、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で始まったのが、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが加盟交渉国として加わり、更にメキシコ、カナダ、現在は日本も交渉に参加しています。
 TPPは対象分野がとにかく広く、農産物や工業品、製造品などの輸出入に留まらず、保険、金融、医療、公共事業、建築、電気通信、投資、知的財産権など、ありとあらゆる分野に関係しているので、貿易協定とはいえ、人々の生活に直接様々な影響を及ぼすことは必至です。それだけに賛否両論があり、現時点でメリット・デメリットを100%証明できる人はいないでしょう。

TPPでこの先日本に起こることは
現在のアメリカを見れば分かる

 TPPのメリットとしてよく挙げられるのが、関税の撤廃により衣食住に関わる多くの商品が安く購入できるようになることですが、これはその通りでしょう。但し、もしもそれが例えば日本に現存する八百屋さんやスーパーマーケットに並ぶ食材、あるいは個人経営でやっているような家具屋さんや雑貨屋さん、文房具屋さんなんかに並んでいるものの値段が単に下がるというような想像をされているのなら、近未来の現実的な様相はかなり違っているでしょう。
 そう言い切れる根拠は、アメリカの現状を見てきたからです。規制を緩め、積極的に市場を開放していった(自由貿易を推進した)結果、中国製に代表されるような、品質はもとより安全基準なども極めて怪しい安価なものが大量に流入することになりました。
 当社で運営しているオンラインショップの新規商材を求めて、ラスベガスの大規模な見本市へ何度か足を運んだことがあるのですが、品数は確かに多いのですが、大半は言葉は悪いですが、本当にゴミ屑のようなものばかりで、消費を煽り続けた国の末路を目の当たりにした気がして、パートナーと共にげんなりした経験を何度もしました。
 消費者の購入先も大変革を遂げます。近年は生鮮食品をも扱い大型グロサリーストアを脅かしているアマゾン、ウォルマートやターゲット、あるいはステープルズやホームデポなんかをイメージして頂ければ簡単でしょう。
 大手リテールストアは、徹底したサプライチェーン・マネジメントに加え、売れ筋は自前で製造して供給できるようにし、圧倒的な価格のアドバンテージを築き、市場に価格破壊を起こし、その強靭な企業体力を武器に、買収も重ねながら、相手を潰す目的で採算割れ需要無視で競合エリアへ過剰に出店し(相手を飛ばした後は、自社も閉じるか価格を吊り上げ)、スモールからミッドビジネスなどあっさりと淘汰していきました。
 関税撤廃で輸入が促進され、国内の製造業がダメージを食らう位までは日本の人達も想像できていると思いますが、販売・流通構造も、今のアメリカのように完全に塗り替えられることも覚悟すべきです。
 極端な淘汰で失業率も増え、生き残るのは利益性、合理性をひたすら追求する超大手のみで、その劣悪な労働環境は、ワーキングプアと呼ばれる人達を大量に生み出し、この層がまた安価なものを消費して支えていくわけですが、そもそも“安く大量に消費するのが素敵なこと”というのも、消費を必要とする大手の洗脳作戦でした。
 経済誌も盛んに「モノが安く手に入る」とTPPのメリットを語るのも、彼らの母体や広告主を考えれば当然の主張なわけですが、消費者を欺くチープなプロパガンダですね。

要はアメリカ化の国際市場展開の話

 結局のところTPPは、多国籍の大手企業関連の超富裕層(俗に言う投資家や経営者など所得水準的にトップ1%)によるアメリカ国内の支配を、日本を含めた世界市場へ拡大をさせる、いわば経済植民地化の動き以外の何者でもないわけで、彼らにとっては多大なメリットで、国家的には何か数値的に多少ポジティブに働くかもしれませんが、99%の一般市民にとっては、搾取される生活環境が更に悪化するだけだと、アメリカを知っていれば容易に予測できます。
 無意味にひたすら消費を煽り続けながら、一方でそれを販売する大型店舗側も、安価で都合の良い労働力を得て、本当に一握りのトップのみが莫大な利益を継続的に得るという搾取構造を、私は経済植民地化と呼んでいます。
 なお本稿の基本テーマと何の関係が? と思われそうですが、私が仕事上で経験してきたことで、TPPの実像の理解に役立つ部分があり、実際にアメリカで生活している方々なら、ご理解頂けることも多々あると期待しています。

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日比野泰 (Hiroshi Hibino)

日比野泰 (Hiroshi Hibino)

ライタープロフィール

Artisan Crew代表。静岡大学工学部卒。2001年に渡米し、ロサンゼルス・エリアにてArtisan Crewを設立。チーフエンジニアとして日米の企業向けに基幹システムを多数開発。次第にニーズと共に、Webマーケティングを中心とした、ブランディングやアメリカ進出サポート、バイラルマーケティングなど、広告代理店としてのサービス提供へと展開するにつれて、Webプロデューサーやクリエイティブディレクターとして、分析・戦略の立案からチームのマネージメントなどの役割を担当。年商2億円増のSEO、月商10万ドル超のECサイト、シェア1位を獲得するブランディング、ファン数10万人超えのSMM、売価の1%以下のCPAを実現するPPC広告など、米系企業とも対等以上に戦える希少な日系企業として、成果の伴うサービスをモットーに企業マーケティングにも貢献。

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