第35回 生ビールならぬ「生ワイン?」で乾杯! Wine on tap revolution

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

タップワインの先駆者Free Flow社にて

タップワインの先駆者Free Flow社にて
Photo © Yuki Saito

 最近レストランでタップワインを見かけるようになった。これは、生ビールよろしく、ワインをバーのタップ(蛇口)からグラスに直接注ぐ新しい試みだ。市場に出まわった当初は、「ワインは瓶詰めが常識」という固定観念が根強く、タップイコール安ものワインというイメージがあったようだ。また、使う側(バーやレストラン)も、生ビールと比べ、温度差や空気に触れさせないなど管理が厳しいワインの扱いに慣れずに、折角の設備をいかせない場合もあったらしい。

 ところが、この分野のテクノロジーがすすみ、正しい使用法さえマスターすれば、一杯目のグラスに注いでから3カ月間、ワインがフレッシュに保たれるという。今では、新鮮な白ワインだけではなく、高級な赤ワインからプロセッコのようなスパークリングワインまで扱えるようになった。レストランにとって一番割の良いビジネスは、ワインのグラス売りで、通常グラス一杯売るとボトル一本の元手が取れる。つまり、グラス一杯の値段=ワイン一本分という訳だ。とはいえ、一旦開栓した瓶入りのワインは、すぐに酸化してしまうので、高いワインはグラスで売れない。

バーカウンターの下はこの通り。赤白ワイン別に温度管理されている

バーカウンターの下はこの通り。
赤白ワイン別に温度管理されている
Photo © Yuki Saito

 ところが、タップワインならば、ステンレススティール製のビア樽(ワイン樽=ケグKeg)に詰めてあり、ワインを蛇口から押し出す際に、同時に抗酸化ガス(ニトロジン、炭酸ガスなど)が残ったワインの表面を覆って酸化を防ぐ仕組みになっている。これなら高額なワインでも、グラスで提供できる。グラスワインのチョイスが増えることは、消費者にとってありがたい。しかもこちらのお値段の方がリーズナブルなはずだ。仕組みはこうだ。

 通常、瓶詰めのワインをレストランが売る場合、まずワイナリー(生産者)で瓶に詰め、コルクを打ち、卸売業者に出荷する。業者は自社の倉庫に運送、保管し、商談が成立した時点でスーパー、小売業やレストランにトラック(或は船)で配送する。レストランはセラーにワインを引き取り、売れるまで管理し、空瓶を廃棄処分するわけだ。この間のCO2(カーボン指数)を考えてみよう。

 まず、ガラス瓶の製造に使われるエネルギー、重いガラス瓶の運搬に使われるトラックや船舶が消費する石油、そして運送中に排出されるCO2も見逃せない。勿論、瓶を詰める段ボール箱も、忘れてはならない。更に、何百年もかけて育ったコルクの木を伐採して作るコルク栓は、伐採と製造で二重に環境を損なっている。翻ってステンレススティール製のケグを使う場合、ワイナリーはワインを大型トラック(タンカー)などで業者に送り、業者がこのワインをケグに積み替え、卸売業者を通して、レストランに配達する。レストランは使い終わったケグを業者に返すだけ。業者はこれを洗浄し、次のワインを詰めるという流れだ。ちなみにケグの寿命は30年で、リタイア後は高品質の鉄製なので当然リサイクルできる。ケグ業者の試算では、瓶詰めワインに比べて、ケグを使った場合のCO2排出量は96%削減されるという。ひとつのケグを使用することで、2340ポンド相当のゴミを減らし、車一台が2年間排出するガスを消去し、28本の樹を救うそうだ。まあ、この試算がどこまで正確かは分からないが、お気軽に注文できるグラスワインのチョイスが増えるのは、喜ばしい。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る