坪居ゆき子
日本語教師­­

文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)

 高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

「言葉を教えるだけでなく責任感や人との接し方も伝えたい」

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 昨年の秋からロングビーチシティカレッジの日本語プログラムで、フルタイム教員として教えています。日本の大学では英米文化、英語教育と言語学を専攻、修士号まで修得した後に一度アメリカでも学びたいという思いで、オハイオ州に1年程度の予定で留学してきました。その間に、日本の大学院での指導教官の先生に出身校の南カリフォルニア大学(USC)の先生を紹介していただく機会があり、USCで博士課程のコースを始めることになりました。

 在学時代からティーチングアシスタントとして、USCの学生に日本語を教え始めました。日本語を教える際に心がけているのは学生には日本語を教えるだけでなく、日本人の責任感、人との接し方も含めてお手本になるような姿勢を見せるということです。学生がそれを受けてどんどん学習態度が熱心になってくるのを実感した時に、教えるという仕事を楽しいと思うようになりました。

 その後、パートタイムの教師として、サンタモニカカレッジ、アーバインバレーカレッジ、エルカミノカレッジの日本語プログラムで教える機会をいただきました。コミュニティーカレッジの日本語教師の多くがパートタイムです。カリフォルニア州の理想としては、フルタイムの教師を75%、パートタイムを25%で配置したいとのことですが、残念ながら実態はほぼ逆転しています。また(コミュニティーカレッジは教師の)ビザやグリーンカードのスポンサーはしないので、日本から来た日本人がパートタイムでも日本語教師として働く機会をつかむのは非常に難しいと思います。私の場合、USC在学中に出会った今の夫のグリーンカード申請時に共同で申請し、ワークパーミットを取ることができたのは非常に幸運でした。

日本語の今をアップデートする努力

 この仕事には、言葉の知識はもちろんですが、想像力が必要だと思います。学ぶ側の学生の学習能力や理解度は均一ではないので、教えたことがすぐにわかってもらえないこともあります。その時に教師の側が学生に歩み寄り想像力を駆使し、どこが理解できないのか、どのように説明すれば学生に伝わるかを探っていくという姿勢を私は大切にしています。他の先生のクラスを見学に行くのも好きです。先日もエルカミノカレッジの日本語クラスを訪ねました。自分がおろそかにしていた点に気付いたり、自分とは違う授業の運び方を学んだりと、非常にインスパイヤされましたね。

 さらに、私は自分の学生に日本からの留学生を会わせる機会を設けたりもしています。たとえば先日も日本人留学生がクラスで「ググる」という言葉を学生たちに教えてくれました。学生たちはそういう言葉が日本で使われていると知って大喜び。教科書からだけでなく、常に日本語の今をアップデートすることも重要だと考えています。

 今受け持っているロングビーチのカレッジに通ってくる学生には発展途上国からの移民も多く、親がアメリカで生活していくのに必死だったために、彼らの勉強が放置されていた境遇の学生が少なくありません。彼らの中にはどこか自分自身に自信を持てないでいる学生も多くいます。それでも、一生懸命に学びたいという学生に、日本語を通じて将来に活かせる何かを学び取ってほしいという気持ちで教えています。

 コミュニティーカレッジで教えていると、教え子と長く連絡を取り合うことは難しいのですが、サンタモニカカレッジ時代の学生がその後四年制大学に進学して日本語の勉強を続け、現在、日本の企業で働いていると知った時はとても嬉しかったです。また、USC時代にレベル4まで修了した学生の中の一人が、私に「実は必修を終えるために、スペイン語やフランス語を取ろうとしたけれども、レベル1すら終われなかった。だめもとでとってみた日本語は必修が終われただけでなく、レベル4まで続けることができた」と教えてくれたことがあります。本来であれば、英語と共通点の多いフランス語やスペイン語の方が日本語よりはるかにやさしいはずなのですが、必修の後も日本語の勉強を続けてくれたことに、教師冥利に尽きるといった気持ちになりました。

 最近のグッドニュースは、やはり昨年の秋にフルタイム教員になったことです。ロングビーチシティカレッジには日本語教師は私を含めて7人いますが、フルタイムは私一人なので、1週間に15単位を教える以外にもプログラムの構築、教師の採用時の面接を担当することも私の仕事です。目標は、うちのカレッジにはまだない会話や文化のクラスを設置すること、ロングビーチにある日本語学校や日本語クラスがある高校などとも連携体制を取って、地域全体の日本語の学習意欲を高めるような取り組みを実施していくことです。

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My Resume
●氏名:坪居ゆき子(Yukiko Tsuboi)
●現職:ロングビーチシティカレッジ日本語プログラム准教授
●前職:サンタモニカカレッジ・エルカミノカレッジ日本語教師
●その他:趣味は食べ歩きと料理。モットーは「学ぶ姿勢を忘れない」

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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