炭川純代
幼稚園教諭

文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)

 高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

「子どもの成長と同じく常に自分自身も成長、変化していきたい」

 現在は2歳から6歳までのプレスクールとキンダーガーテンを付設したモンテッソーリの学校を経営しつつ、自分でも一番上の年齢の子どもたちのクラスを1コマ担当して教えています。管理職としてだけでなく、できればずっと現場で教えたいという希望があるからです。

 日本では札幌の短大卒業後に紹介を受けた幼稚園で5年教えていました。そこがたまたまモンテッソーリの幼稚園だったのです。子どもの発達に応じた教育を施すというメソッドに沿って教えていくうちに、子どもの成長が手に取るようにわかり、その素晴らしさに私自身も開眼、3年かけてモンテッソーリの教師資格を取得しました。さらに日本より20年進んでいると言われるアメリカで実習経験を積むために1993年に渡米。アメリカンモンテッソーリソサエティ認可の教育機関で、最初の年はミズーリ州セントルイスでトレーニングを受けた後、ニューヨーク州バッファローで1年間の教育実習、さらに次の年実習を経験しました。

 その後は帰国する予定でしたが、もっとアメリカに残りたくなり、教育実習を受け入れてくれる所を探し始めました。受け入れてくれたのが、ロサンゼルス郊外のノースリッジにあるCASA(カーサ)モンテッソーリ、日本人のさくら・ロング先生が経営する学校でした。それまでは先生の下についてアシスタントの仕事のみだったのですが、そこで初めて担任を任されたことで壁にぶつかりました。言葉の壁です。その学校は園長こそ日本人でしたが、児童は全員アメリカ人。英語だけを使って教育していました。幼児教育についての実績は自負していました。しかし、私にとってネイティブではない英語には自信がありませんでした。一度でも保護者から私の授業に対するコンプレインがきたら、その時はさくら先生の判断を仰ごうと覚悟して教え始めました。

 ところが、子どもも保護者も受け入れてくれたのです。非常にありがたいことだったと思っています。結局、CASAモンテッソーリでは7年教えた後、自分自身をもっと高めていかなければ、という気持ちになり、結婚と時を同じくして退職、フルタイムの学生になりました。

一人ひとりをよく見て言葉にしてほめる

 コミュニティーカレッジを経てUCLAに編入し、自閉症児を相手にした行動療法研究の第一人者、ロバース博士の講義をきっかけに、今度は自閉症児のセラピーにも興味を覚えるようになり、行動療法セラピストの資格取得をめざしました。

 その頃は自宅に教室のようなスペースを作り、自閉症の子どもたちを呼んでセラピーを実施していました。さらにセラピーにモンテッソーリのメソッドを導入することに手応えも感じていました。同時期、日本のモンテッソーリの協会から声がかかり、日本でモンテッソーリの教師資格取得のためのクラスの講師として指名を受けました。今でも年に4回、日本に通って教えていますが、そうしているうちに、やはり自分で子どもたちを相手に現場で教えたいという気持ちを抑えきれなくなったというのが今の学校を創設した理由です。

 5年前の9月、コスタメサの古い教会がリースに出ていると聞き、見学に行くと、そこですぐに「ここで幼稚園をやりたい」と思うようになりました。既に新学期が始まっている時期でしたが、どうしてもこのチャンスを逃すわけにはいかないという気持ちになり、11月1日新学期スタートという形でモンテッソーリ国際学園をスタートさせました。

 当学園では私のセラピストとしての経験を生かして、発達に課題を持っている子どもも受け入れています。個人セラピーと教育現場での違いは何か? それはやはりその子ども一人だけを相手にしているのと違って、グループの力がいかに大きいか、ということですね。学校というコミュニティーに子どもを置くことで、周囲の影響を吸収しながら、個人セラピーの何倍ものスピードで変わり、成長することもあります。そして子どもだけでなく、幼稚園の教諭という人材に求められる条件も「自分がいかに成長できるかを常に追求する姿勢」を持っていることです。日々変化し、成長する子どもを相手にする仕事ですから、教師の側もじっとしているわけにはいきません。

 そして、保護者から「キンダー以上の学年もつくってほしい」との声をいただいた結果、9歳までの子どもがフルタイムで学べる環境を準備中です。当学園では日本語の基礎作りを重視し、同時に当学園を巣立った後に現地校での英語の授業にもついていけるような準備に力を入れています。そのため、私自身もさらにバイリンガル教育に力を入れて研究しなければと、専門家による勉強会などにも積極的に参加しています。

 教える仕事を選んだのは、小学校の時の担任の原先生の影響が大きいです。子ども一人ひとりのことを良く見てくれる先生でした。ある時、私が先生の机の上を片付けた時のこと、原先生は皆の前で「黒田(旧姓)は凄いぞ。こんなに綺麗に片付けてくれた」とほめてくれたのです。それまではぼんやりした性格で人にほめられることなどなかったのですが、自分にもできることはあるんだと思えて嬉しかったことが忘れられません。子どものいい所を探して、それを言葉にしてほめること、それを今も私は心がけています。

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My Resume
●氏名:炭川純代(Sumiyo Sumikawa)
現職:モンテッソーリ国際学園園長
前職: 行動療法セラピスト
資格:AMS Early Childhood / Elementary I Credential、M.A.Ed.
その他:最近、熱心に取り組んでいるのはワークアウト。子どもたちを相手にする仕事である以上、健康が何よりも大事だと実感している。
ウェブサイト: www.monteintel.com

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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