彼の国を憂いて 〜 築地市場

文&写真/水島伸敏(Text and photos by Nobutoshi Mizushima)

 

買われたマグロたちが運ばれていく Photo © Nobutoshi Mizushima

買われたマグロたちが運ばれていく
Photo © Nobutoshi Mizushima

 明け方5時すぎから始まるマグロの競りを観るには、まだ暗い3時ごろから並ばないとならない。120人の定員にもれないように大勢が夜明け前から並んで待つ。しかし、その中には、残念なことに日本人の姿はない。いても私を含め、2、3人といったところだ。ほとんどが外国からの観光客で、アジア系やヨーロッパ系とさまざまだ。

 5時少し前に競り場へと通された。凍ったマグロたちがたくさん地面に並んでいる。買い手はマグロの尾のあたりの肉を手かぎという小さな鎌でえぐり、懐中電灯で照らし、匂いを嗅いだり、舐めたり、その魚の良し悪しを判じている。自分の気に入ったマグロが決まるとその前で競りを待つ。木箱の上に乗った競り師が、鐘をならし競りが始まった。

 私が聞いていてもさっぱりわからない競りの掛け声が場内にリズム良く響き、競り師の体もそれに合わせて揺れるように動いている。彼らだけに通じる暗号が飛び交い、買い手は手を挙げたり降ろしたりしている。興奮気味な外国人の観光客たちの目の前で、大きなマグロが次々と売り買いされていく。彼らは、夜中から待っていたことなどすっかり忘れた様子で楽しんでいるようだ。
 


 

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