第45回 勉強の手助け

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

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 ノアが小学生の時、初めてのオープンハウスで驚いたことがある。児童の作ったとされる工作が、子どもの手によるものとは思えないほど高い完成度だったということだ。子どもの作品というよりも、親との共同作品と呼ぶにふさわしいのでは? というのが率直な感想だった。教師も作品作りのガイドラインを親にメールしてくるほどで、「一緒に作るのが前提」とも受け取られた。

 アメリカの建国史をレポートに作成する時も、まずノアが本を読み、文章を書く。それを私が校正し、清書させた後、ノアが挿絵を描いた。完全なる共同作業だ。こうすることで、私自身、ほとんど知らなかったアメリカの歴史の流れを知ることができた。子どもをアメリカの学校に通わせるということは、親である自分も新しい知識を習得することを意味する。

 兄と違って、ほとんどヘルプを求めないニナからも、最近「手伝ってほしい」とよく言われる。ニナの場合、プロジェクトは100%自分で終えるが、私に手伝いを要請するのは、その多くが試験の準備。先日も、中国語の試験の前に、レターサイズ2枚にびっしりの例文を渡された。例文はまず英語で書いてある。次に中国語に翻訳されたものが漢字で、さらに発音記号で書かれたものの3つが1セットになっていた。その例文が30ほど並んでいる。

 ニナは「英語の例文を読んで。私がそれを漢字で書く。次に中国語で発音するから、漢字と発音、両方正しいかどうかチェックして」とリクエストした。これがなかなか大変なのだ。英語で読むのはいいにしても、次にニナが漢字で書いた文章を確認するのが一苦労。日本の漢字よりも省略されたような形の中国の漢字には馴染みがない。そして発音も耳慣れない言語なので、聞くだけで疲れてしまう。

 その確認作業を例文の数だけ行うと、体力と気力の限界を迎えたのはニナではなく私の方だった。慎重派のニナに「もう1セット、やった方がいいかな」と言われ、「勘弁して」と音を上げたほど。その時、ふと思った。「形が違うとは言え、多少なりとも中国語と共通点がある日本語が母国語の私だから何とか確認できるのだ。英語やスペイン語が母国語の親にしてみたら、中国語の試験勉強を手伝うなんて不可能に近いのでは?」ということだ。その疑問をニナにぶつけると、「無理だよ。シドニーはお母さんに手伝ってもらえないから、私にお願いしてくる」とのこと。やっぱり。

親にとっても知識習得

 中国語のプレゼンテーションを控えた時も、ニナは私を相手に何度も練習した。家族構成や職業、どこに住んでいるかなどの紹介をされたのだが、前回、いくつも中国語の例文をチェックさせられたおかげで、何を言っているか理解できる箇所もあった。

別の時は、化学の元素記号の確認を手伝った。これもまた大変だった。アメリカの学校に通ったことがない私、元素記号は日本語でしか習っていない。しかも日本語ですら既に覚えていない。表に元素記号、裏に元素名が書かれたフラッシュカードを渡された時に最初にしたのは、元素名の英語での読み方をニナに聞くことだった。

 日本の学校にしか行ったことのない私が、アメリカの学校に通う子どもの勉強をこうして手伝うことで、新しい知識が身に付くのは喜ばしいことだと前向きに考えている。しかし、それも中学までが限度。今秋からニナが高校に行けば、ノアの時もそうだったように、親の私が努力しても勉強を手伝うのは難しいはずだ。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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