第96回 タイミングは命

文/寺口麻穂(Text by Maho Teraguchi)

「ごめんなさい」という表情より、「すごいでしょ!」という顔を引き出したいものPhoto © Maho Teraguchi

「ごめんなさい」という表情より、「すごいでしょ!」という顔を引き出したいもの
Photo © Maho Teraguchi

 「好機逸すべからず」「鉄は熱いうちに打て」などという諺が示すように、私たちの暮らしの中で、今だと思えば即座に事を起こすことが大切な場合があります。物事には、絶妙なタイミングというものがあり、それがきちんと判断出来て、取るべき行動を取るか否かで、明暗を分けてしまいかねません。犬との暮らしの中でも、飼い主が絶妙なタイミングをしっかり理解し、正しく行動が起こせているかで、関係作りが大きく左右します。今回は、犬との生活におけるタイミングの重要性についてお話しします。

物には時節

 私たち人間は、「あの時のことだけど…」と過去に起きたことに対し、相手に謝罪したり、非難したりもします。しかし、その概念が理解し合えるのは人間同士のみで、犬に「あの時の」は通用しません。犬の概念は「全てが今」なのです。過去も未来もなく、今を生きるのが犬。それゆえに、犬とのやりとりは、瞬時しか通用しないということを忘れてはいけません。例えば、留守中に愛犬が悪戯をし、帰宅した際に発見。そこで犬に説教したところで、犬にしたら「お帰りなさいと挨拶したら叱られるの…?」と思います。悪戯は現行犯で正す。でなければ効果がないばかりか、間違ったメッセージを送ってしまうことになります。

 私はレッスンの際にいつも「”スリー・セカンド・ルール”と覚えておきましょう。」と説明します。愛犬の問題行動を正す時は3秒以内に行う。もし、時間が経ちすぎていたら、次に即時に正せる機会を待ちましょう。その方が絶対に効果的です。愛犬の良い行動を褒めるのにもスリー・セカンド・ルールを適用します。と言うのも、飼い主の多くが、即時に正すことは実行出来ても、褒めることを忘れがちだからです。犬にとって飼い主から褒められるということは、大好物のおやつよりも何よりも一番のリワードです。愛犬が自分で考える時間と機会を与えてあげ、問題行動を正したり、良い行いをしたりすれば、飼い主は直ちに褒める。愛犬の行動に対し、瞬時に正して、褒めて。この繰り返しで、犬は「何が間違いで、何が正しい」か、を学んでいくのです。

虫歯と同じ

 冷たい水が沁みる…。虫歯だ…と思ったら歯医者に行く。虫歯は放っておくと、治らないばかりか、どんどん悪化していきます。それと同じで、犬が問題行動を起こし始めたら、放っておいて自然に直るということはありません。しかし、愛犬の問題行動に歯止めが効かなくなったら、多くの飼い主は犬を責めるだけでなく、中には放棄してしまう人もいます。問題の原因のほとんどが飼い主にあり、気がついた時に早期に対処していれば、そこまでいかずに済みます。愛犬が問題行動を示し始めたら、まずは飼い主である自分の行動を振り返り、自分を正す。何をどうしていいか分からない場合は、迷わずに専門家の助けを得ることです。

 早期発見、早期対処。早く手を打っていれば、案外簡単に改善出来ることでも、伸ばし伸ばしにしていたために大変なことになることもあります。今を生きる犬との暮らしにおいて、飼い主も一緒に今を生きることはとても大切なポイントです。

 次回は、「The Sato Project」と題し、プエルトリコの海岸に捨てられた犬達をレスキューし、アメリカに運んで来て、新しい家族を見つける活動をする団体のお話です。お楽しみに!

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

寺口麻穂 (Maho Teraguchi)

寺口麻穂 (Maho Teraguchi)

ライタープロフィール

在米29年。かつては人間の専門家を目指しサンホセ州立大学・大学院で文化人類学を専攻。2001年からキャリアを変え、子供の頃からの夢であった「犬の専門家」に転身。地元のアニマル・シェルターでアダプション・カウンセリングやトレーニングに関わると共に、個人では「Doggie Project」というビジネスを設立。「人間に100%生活を依存している犬を幸せにすることが人間の責任」を全うするため、犬の飼い主教育やトレーニング、問題行動解決サービスを提供している。現在はニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し活躍中。

プライベート/グループレッスン、講習会のお問い合わせは:www.doggieproject.com
ご意見・ご感想は:info@doggieproject.com

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  2. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  3. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
  5. 私たちは習慣や文化の違いから思わぬトラブルに巻き込まれることがあり、当事務所も多種多様なお...
  6. カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキン...
  7. 2023年12月8日

    アドベンチャー
    山の中の野花 今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化...
  8. 2023年12月6日

    再度、留学のススメ
    名古屋駅でホストファミリーと涙の別れ(写真提供:名古屋市) 以前に、たとえ短期であっても海外...
ページ上部へ戻る