心の病 相談室

Q.6 日本から来た人がアメリカでアルコールやドラッグ依存に陥るケースについて教えてください。A.6 環境の変化によってストレス発散法が限られ、孤独感や孤立感が募ると、アルコール依存が悪化してしまう傾向があります。アメリカではアルコールもドラッグの一部であることを認識しましょう。

回答: 岩田康嗣先生

ティーンエイジャーがドラッグを使用する時の特徴として、「周囲の子どもがやっているから」と罪悪感なくはまってしまうケースがあります。駐在で日本からアメリカに来ている家庭の場合、子どもと親のドラッグに対する認識にギャップがあるため、その発見を遅らせてしまうことがあります。子どもにとってはドラッグが身近な存在なのに対し、日本で生まれ育った親にとっては「ドラッグなんてとんでもない」という考えから「うちの子に限って(ドラッグなんてやっているはずがない)」と思い込んでしまう傾向があります。

学生の場合は学校に行かなくなる、朝起きてこない、逆に夜中にずっと起きている、無断外出などの頻度が増えたら、アルコールやドラッグの使用がないかどうか注意してみましょう。

また、夫の海外赴任に同行してアメリカに来た奥さんは、家にこもってお酒を飲み続けてしまうキッチンドリンカーになる場合があります。人によっては英語で苦労したり、慣れない海外での子育てに悩んだり、もともと興味がなく自分の意思とは裏腹にアメリカ生活を強要されてしまった場合、そのストレスを解消する手段としてお酒に逃げることがあります。日本では友だちが話し相手になってくれたり、習い事をしたり、行きつけのお店やショッピングに行くなど、ストレス発散方法の選択の幅が広いです。ところがコミュニティとの接点が限定された駐在員の奥さんはストレス発散方法も限られてしまうのが現状です。外界との接点を増やしたり、家族のコミュニケーションを円滑にしたりしてサポートシステムを作ることを心がけましょう。孤独感や孤立感はキッチンドリンカーを悪化させます。旦那さんや周囲の優しい一言やちょっとした気遣いが状況を一転させたケースも過去にありました。

また、ドラッグをやっている人は、小さな言い訳や嘘をつく頻度が増えます。「以前と言っていることが違う」「話が矛盾している」と感じたら注意してみましょう。ドラッグ常習者は薬物使用を正当化したり、現実逃避や問題を隠そうとしたりする傾向があり、結果として小さな嘘や言い訳が増えます。

「ストレスから解放されたい」「リラックスしたい」「パーッと嫌なことを忘れたい!」という理由からお酒や薬物を使用するのは、人種や国籍にかかわらず万国共通の現象です。ただし文化やその国の法律、宗教の関係でその特徴が異なります。

日本人の場合、ストレスをお酒に頼って解消しようとするケースが多いようです。「お酒は合法なんだから飲んでもいいじゃないか」とお考えの日本人は多いと思います。しかし、ここアメリカではアルコールはドラッグの一部という認識があり、その飲み方、摂取量、頻度を誤れば薬物中毒や依存の問題として扱われることも少なくありません。健康面の観点からも休肝日を作るなど、普段から節度をもってお酒とお付き合いすることが理想です。

また一人でダラダラ長時間お酒を飲む習慣は、アルコール依存症に発展する場合も多いので、誰かと会話を楽しみながら、かつ食事と栄養バランスにも配慮したお酒の飲み方を心がけましょう。

Q.7 アルコールやドラッグ依存の治療はどのように行われるのですか?A.7 「アルコール・ドラッグ乱用や依存が病的な状態であること」から治療が始まります。治療成功の最大の鍵は本人に問題意識があるかどうかという点です。

回答: 岩田康嗣先生

軽度のアルコール・ドラッグ乱用や依存の治療は外来診療も選択としてあるのですが、重度のアルコール・ドラッグ乱用や依存の治療となると住み込みのリハビリ施設で行われ、長期になることもあります。

アルコール・ドラッグ乱用・依存の治療は、まず患者に「自身のアルコール・ドラッグ乱用や依存が病的な状態であること」を理解させるところから始めます。乱用者・依存者は自らの症状を病気だと認識していない場合が多いです。

患者は依存症とは別の次元で、問題を抱えていることがあります。たとえば人間関係であったり、うつだったり、心配事だったり、体の痛みだったりします。アルコールや薬物はその問題から逃げる手段になっている場合があります。ですから、その問題に、カウンセラーや周囲のサポートの力を借りて、自ら直面していきます。そして自分の状態が病気だと受け入れていく行為は「現実を受け入れていくこと」であり、「ありのままの自分を受け入れていくこと」にもなります。このプロセスの流れそのものが治療の鍵となります。

アルコール・ドラッグ乱用や依存の治療で重要かつ最大の難関は、本人にお酒や薬物の使用を止める意思があるかないか、本人に問題意識があるかどうかという点です。どんなに周りが心配しても、どんなに周りがサポートしても、本人に使用を止める意思がない場合、治療は難しくなります。

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