厳選された至上のレストラン第7回
〜Pabu Izakaya & The Ramen Bar〜

日本からの食材を積極的に使っているお店を応援しようという趣旨のもと、アメリカ国内の様々なレストランを紹介していく。

全米で数々の有名高級レストランを展開するマイケル・ミーナ・グループ。その高級和食レストランとして2014年7月、サンフランシスコのダウンタウンの一等地である金融街(ファイナンシャル・ディストリクト)にオープンしたのが「Pabu Izakaya (パブ・イザカヤ)」だ。 オープンする前からメディアなどで話題を呼び、連日サンフランシスコのエグゼクティブたちが足繁く通う、なかなか予約の取れない人気店の一つとなっている。

顧客はアジア系を含め、現地に住むアメリカ人が9割以上を占める。レストランの半分はバーコーナーで、ニューヨーク時間で働く金融プロフェッショナルのために15時からオープン。ワインやカクテルのほか、日本酒や焼酎、日本産のウイスキーなどの品揃えも豊富で、仕事を終えたバンカーたちが日の高いうちからバーに集まり気炎を上げている。隣には「The Ramen Bar(ザ・ラーメン・バー)」というカジュアルなラーメン店も併設し、ラーメン好きの地元客でいつも賑わっている。

レストランは夜も早い時間から満席

バーではつまみのほかレストランの料理も注文できるので、一人客はここで飲みながら食事をすませる人も

ラーメン・バーはカジュアルな雰囲気で、お昼時は付近に勤める人々で賑わう。ラーメン好きの若者にも気軽に入れるお店として人気

日本産食材にこだわる理由

ケン・富永さん(右)とマイケル・ミーナ・グループの会長であるマイケル・ミーナさん(左)。全米を飛び回るミーナ氏に代わり、日々の運営は富永氏に一任されている

ケン・ 富永氏は、この店のマネージング・シェフ兼パートナー。ソノマのロナートパーク市 (Rohnert Park) で20年以上前から営んでいる彼の和食レストラン「花」は、ワインカントリーで本格的な日本食が食べられる店として、地元の人たちに長く愛されている。「実はサンフランシスコより2年前に、ワシントンに近い東海岸のボルチモアでまずオープンしたんです。でもその時はいわゆる”フュージョン料理”でした。フュージョン料理は日本人でなくてもできる。日本人の僕にしかできない料理で勝負したい、と早々にそこは閉めて、あえてアメリカの食の激戦地サンフランシスコを選んだんです」と富永氏は語る。

来客を満足させる本物の日本食を提供したいと、熱く語る富永氏

「海外にいる日本人を喜ばせる和食を作るのは、日本人の僕にはそう難しくない。でも僕は日本人相手の和食レストランではなく、アメリカ人に日本食を食べさせたい。ここに来るお客さんは国際的に飛び回り、本物を知る、お金を持った舌の肥えた人ばかり。もちろん和食も最高のものを日本ですでに食べている。しかも、彼らの比較の対象がフランスにあるフレンチの三ツ星だったり、香港の中華の老舗だったりする 。本当においしい”本物”でないと満足してもらえません」

本物を提供するために、素材も日本産の本物にこだわる。「ブラインドで試食したらすぐ分かる。日本産のものは最終的にピタッとハマるんです。外国産はその”ピタッと感”がないことが多い。そのためにできるだけ日本産のいいものを使いたいんです」。

魚介類はほとんどを日本から航空便で取り寄せている。同じ魚でも日本から来たものとそうでないものには微妙な差があり、それが料理をした時に大きな差になるという。和牛しかり、調味料しかり。「出来上がった味の差を比べると、価格の差は微々たるものだと思うんです。納得のいくものを使いたい、それだけです。この差が差別化に繋がっていると思うのです」。もちろん日本産以外でも良いものは躊躇なく使う。「こちらの野菜の鮮度と味は抜群です。それに、 なめこ。これにかなう日本産はまだ見つかってない」と笑う。

寿司コーナーでは腕を磨いたシェフたちが「一期一会」をモットーに料理をふるまう

新しい味を試してもらうには
実感値に基づいた顧客への丁寧な説明が大事

お店の人気メニューは何と言ってもお刺身やお寿司。その日のおすすめ盛り合わせを注文するお客さんが多い。また牛肉も人気で、特に宮崎産のA5ランクのビーフをさっとあぶったJapanese Miyazaki A5 Strip Loinがよく出る。「お客さんによっては赤身のアメリカ産の牛肉を好む人もいるので、食べ比べができるように日本産とアメリカ産の両方を用意しています」。

新メニューであるキンキの干物も評判になりつつある。「脱水させると味が深くなるということをお客さんに知ってもらいたいんです」と富永さんは言う。干物もお店で一枚ずつ手作りしている。どうして干物にするとおいしくなるのかを顧客にていねいに説明するそうだ。ここに来る舌の肥えた顧客は、新しい味に興味を持ってくれると言う。でも「トライしてもどうしてもダメな時は、トライしてくれてありがとうと言ってお代はいただきません」。

新しいものを試してもらう時は、顧客へのていねいな説明が大切という。「ただメニューに載せただけではダメ。どういう料理なのか、どういう味なのかをスタッフが説明して初めて食べてもらえる。だからスタッフトレーニングには力を入れています」。新しい食材や調理法はスタッフ全員で試食・試飲し、実感してもらう。実感値がなければ説明にも熱がこもらない。「ここで働いたスタッフは、そんじょそこらの和食のプロ以上の知識がつくと思いますよ」。

魚介類は一部を除き、すべて日本から航空便でお取り寄せ。盛り付け一つとっても、日本人にしかできない「本物」を出し続けることが差別化となる

人気メニューの牛肉はアメリカ産と日本産を常時使用。写真は宮崎産のA5ランクのビーフをあぶったもの

新メニューであるキンキの干物。パブ・イザカヤのお客さんは、新しい味に挑戦するのにも躊躇しない

酒ソムリエのステュアート・モリスさん。頻繁に日本の酒蔵を回っては新しい情報をお客さんに提供する

パブ・イザカヤではまた、日本酒、焼酎、日本のウイスキーの取り扱い数も多く、「ケン・富永セレクション(Ken Tominaga Selection)」という富永氏が厳選した日本酒も置いている。 「年に最低1回は日本の各地の酒蔵を回ります。ここは和食の店だから日本酒は当然売れる。でもそれだけではダメ。おいしい日本酒は和食だけでなく、色々な料理に合わせられる。その可能性をお客さんに知ってもらわなければいけないと思うんです。それで日本酒も日本食も広がっていく。だから、僕はときどき知り合いのイタリアンのレストランに日本酒を持っていって、シェフと一緒に彼の料理と日本酒のマッチングをするんです」。

特に熟成した日本酒はワインのように、和食以外のさまざまな料理にマッチするという。「日本酒は熟成しないと思っている人が多いが、ワイン文化の発達したここでは逆に受け入れられるかもしれない」。

バーで飲みながら打ち合わせをするプロフェッショナルたちの姿も

もっとおいしい食材が日本にはあるのではと、常にアンテナを張っている

今のところ、ひと通りの良いものは手に入るので、使っている食材で満足していないものはないという。逆に満足しないものは使っていないということかもしれない。「ただ、もっとおいしいものがあるんじゃないか、といつも思うんです。こちらに入って来るものの多くは大手の商社が扱っているので、小規模だけどこだわりを持って作られたおいしい食材がまだこぼれているのでなないか、と。だから『おもしろいものがあったら教えて』とみんなに言いふらしています」。

サンプルを試し、良いと思ったものは何とか取り寄せて使うという。またアメリカの規制のために使いたくても使えないものもあるのだそうだ。「牛肉以外の肉類やホタテ以外の二枚貝などは残念ながらこちらでは日本産は入りません。こればっかりは政府に頑張ってもらわないと……」。

味噌や塩麹といった調味料もお店で作って保存

写真:©︎2017 Akiko Nabeshima http://www.akikophoto.com/

 

Pabu Izakaya & The Ramen Bar
日本産食材サポーター店

■住所: 101 California St. San Francisco, CA 94132
■電話:415-668-7228
■ホームページ:https://www.michaelmina.net/restaurants/pabu/
※ボストンにも店舗あり

日本産食材サポーター店認定制度

日本農林水産省が定める制度で、日本産の食材や酒類を積極的に使用し魅力を伝えているお店を日本産食材サポーター店として応援する制度が米国でも始まりました。日本産食材の輸出を促進する事で、日本の生産者や食品事業者を支援していくものです。今後もこのコラムで、日本産食材を取り扱うお店やレストランをご紹介していきます。対象は全米の食品小売店と飲食店です。ご推薦のお店やレストランがございましたら、是非ご連絡お願い致します。


日本産食材サポーター店認定制度の農林水産省ウェブサイト
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/syokubun/suppo.html
日本産食材サポーター店認定制度のジェトロウェブサイト
https://www.jetro.go.jp/agriportal/supporter/

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鈴木優子 (Yuko Suzuki-Bischoff)

鈴木優子 (Yuko Suzuki-Bischoff)

ライタープロフィール

大学卒業後、リクルート社勤務を経て1992年渡米。1994年にシカゴのノースウエスタン大学ケロッグビジネススクール卒、MBA。ニューヨークのペプシコ本社、カリフォルニアのE&Jガロワイナリーでマーケティング・ディレクターをしたのち、2004年独立。現在、スズキ・マーケティング社およびヴィネジア社の社長として、 マーケティングコンサルティング業務とワインの輸出・マーケティング業務に携わっている。スズキ・マーケティング社は2013年よりJETROサンフランシスコ事務所の食品担当コーディネーターとして、北米に進出を希望する日本企業の支援業務を実施。さらに日本産食材サポーター店の公式認定団体として、サポーター店の認定およびサポート業務も行う。
ワインのほか日本酒と焼酎が大好きで、JETRO-LA主催の焼酎輸出促進協議会メンバー。夫と娘、2匹の犬とともにサンノゼに在住。

ベイエリア・日本産地食材サポーター店ホームページ:
http://www.japanesefoodsupportersf.com/

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