短期集中連載
第1回 ポジティブ皮膚科学のススメ
顔のしわ

今回、3回にわたり、皮膚科領域の国際的な論文の話を織り交ぜながら、皮膚科学の最新情報を読者の皆様に提供したいと思います。

皮膚科学は病気の予防や治療はもちろん、人々の暮らしを豊かにし、社会を良くするのに役立つものと信じています。皮膚科学は病気だけではなく、美容や化粧品といった領域も対象としますし、皆さんそれぞれが自身の皮膚の状態について満足すれば、一人一人の気持ちが明るくなり、その結果、社会の雰囲気も明るくなっていくのではないでしょうか。世界規模で社会の混迷が深まりつつある現在、「今のような不安定な世の中だからこそ、皮膚科学の活用で、世界の平和や安定に寄与することはできないだろうか」と常日頃考えています。

その意味で、私は数年前から「ポジティブ皮膚科学」という概念を提唱しています。人々の心を明るく、気持ちを前向きにできるように、皮膚科学を基軸に、他の領域との結びつきにより皮膚科学を応用する横断的なコンセプトです。

LAは、男女問わずアンチエイジングや美に対する意識がとても高いと感じています。またエンターテインメントの先進都市であるここLAにおいて、皮膚科学も人に夢を与え、人を幸せにすることができるとも確信しています。皮膚科学をエンターテインメント(人を楽しませるもの)のひとつとしてどこまで高めることができるか今後挑戦していきたいと考えています。

皮膚の老化には
5つのリスクファクター

さて、まずは皮膚の老化の話から始めたいと思います。基本的に、皮膚を老化させる原因として、紫外線は特に重要であると考えられており、紫外線防御は皮膚の老化対策の要となります。加えて数年前に発表された論文によれば、皮膚の老化には5つのリスクファクターがあると指摘されています。日光への暴露、喫煙、低BMI(肥満度を表す指標)、男性、そして高年齢です。そのうち、慢性的な日光への暴露と喫煙量は、顔のしわ形成に大きく影響しており、サンスクリーン剤(日焼け止め)とサングラスの使用が対策として有用であることが述べられています。

このしわへの対策については、サンスクリーン剤の使用に加えて、食べ物も有用であることが指摘されています。ある論文によれば、トマトペーストには光による皮膚の損傷から守る効果があることが指摘されています。トマトペーストには、リコピンという抗酸化物質が豊富に含まれており、それを食べることは効果があると報告されています。また別の論文によると、カカオ豆にはしわの形成を抑える働きがあるようです。カカオ豆の抽出物が皮膚の真皮という部分の破壊を防止することによって、しわの形成を抑える可能性が指摘されています。さらに別の論文の研究成果は、キュウリはアスコルビン酸を多く含んでおり、しわを改善する化粧品の成分になりうるであろうと指摘しています。

最後に、高齢者の方のスキンケアについて解析を行った論文を紹介したいと思います。この研究成果によれば、低刺激性の洗顔料、合成洗顔料、そして保湿剤が、皮膚のバリア機能を維持するもっとも有用な手段であると結論づけられています。ここLAもそうですが、アメリカには乾燥がひどい地域もありますので、有用な情報のひとつと思います。乾燥肌に対するスキンケアは大切です。皮膚の乾燥は、しわやくすみなどの原因となって、容姿が老けて見えることにつながるからです。

命にダイレクトに関わってくる医療はもちろんですが、アンチエイジングのような生活の質(QOL)を高める分野も大切と感じています。自身にとって心地よい容姿を保つことは幸せな心の維持につながり、快適な毎日を送れると考えるからです。

今回は顔のしわの話を中心としました。次回は脱毛など、髪の毛について書きます。

小川徹
皮膚科専門医。アメリカ皮膚科学会会員。ハーバード大学マサチューセッツ総合病院客員研究員。元ロンドン大学セントトーマス病院客員研究員。早稲田大学招聘研究員。元慶應義塾大学研究員。医学博士、MBA、公共政策の修士号を持つ。

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