短期集中連載
第2回 ポジティブ皮膚科学のススメ
髪の毛


 私はかつてビジネススクールに行き、スキンケアビジネスの視点で多くのことを学びました。皮膚科学が夢や希望を与えることのできる可能性のひとつは、ニュービジネスにあるのではないかと私は考えています。そのためには既存の価値観や概念を打ち破る必要があります。無から有を創り出す発想、まさにクリエイティブ・シンキングです。その意味において、ここエンターテインメントの街・LAは、私に自由な発想を日々与えてくれています。私は、ユニバーサル・スタジオやシルク・ドゥ・ソレイユなどの大ファンです。先日は、ドジャー・スタジアムにシルク・ドゥ・ソレイユを観に行き、独創的な高い芸術性に感動しました。近年、欧米の社会では、芸術をビジネスに取り込む重要性が指摘されています。芸術は創造的思考力を伸ばすからです。アメリカのビジネススクールには興味深いことに、MBAと芸術修士のジョイントプログラムや、ビジネス×デザイン×エンジニアリングといったユニークなプログラムなどが存在しており、この方向性もまた、時代のフロントラインと認識しています。世界情勢が不透明で先行きが見えない中、世界のエリートは美意識を高めるために様々な取り組みを行っています。

 そのうえで私のような日本人皮膚科医の強みのひとつは、東洋的発想にあるのではないかと考えています。今後はグローバル社会においても、「自然との調和」「精神性の重視」など東洋的なキーワードがますます注目されてくると私は感じており、その意味で「和」の皮膚科学的発想を大切にしています。これは日本人に多い皮膚疾患を単に意味するものではありません。たとえば日本古来の文化に基づいた和のコスメなどについて考えてみる時、私たち日本人の心の奥底に深く刻み込まれている文化風習や美的感覚などにヒントがあると思っており、新たなイノベーションを生み出す皮膚科学の応用の可能性を、今後、私は追求していきたいと考えています。

若ハゲや若白髪と
心臓病の関連性

 さて今回は髪の毛の話です。毛や爪、汗腺や脂腺は、皮膚の付属器といいます。英語だと、アクセサリーオルガンです。皮膚科学では、皮膚そのものに加えて、これら付属器も扱いますので、ポジティブ皮膚科学展開の二本柱は、皮膚と皮膚の付属器にあると考えます。

 髪の毛については、脱毛と白髪で悩む方々が多くいらっしゃいます。ある論文によれば、髪の毛の色素の低下は男性の場合、家族歴、肥満、喫煙歴(5年以上)が関係していると指摘されています。また別の論文では、男性の場合、男性型脱毛症と肥満に関連性があるとのことです。一方で女性の場合には別の論文で、HDLコレステロール(動脈硬化の防止につながる善玉コレステロール)の低い値、インスリン様成長因子の低い値が、脱毛のリスクと関連しているという研究成果が発表されています。

 またパーマ、カラーリングと髪の毛の関係を考察した論文もあります。その論文では、髪の毛の障害の程度を24時間後に、電子顕微鏡で評価しています。その結果としては、アジア人の髪の毛はストレートパーマによるダメージに強く、白人の髪の毛はカラーリングに比較的敏感である特徴が指摘されています。また黒人の髪の毛は、そのどちらによるダメージにも強い特徴があるとのことです。

 さらには最近、若ハゲや若白髪の人は、心臓病(冠動脈疾患)が生じるリスクが高いという興味深い報告が、欧州心臓病学会よりありました。特記すべきことに、若ハゲや若白髪は、実際の年齢よりも生物学的な年齢を反映しており、肥満よりも冠動脈疾患の高い予測因子になる可能性が指摘されています。この若ハゲおよび若白髪と、心臓病の関係については、今後さらなる研究が必要でしょうが、一般に皮膚はヒトの内面を映し出す鏡といわれています。皮膚は他の臓器と違い、よく見ることができます。身近な存在ですので、この連載を通じて、あらためて皮膚に興味を持っていただけたら、うれしいです。

 次回はかゆみとアレルギーについてお話しします。

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小川徹

小川徹

ライタープロフィール

皮膚科専門医。UCデービス、ロンドン大学セントトーマス病院などを経て、現在、UCLA Visiting Doctor、早稲田大学招聘研究員。元慶應義塾大学研究員。医学博士、MBA、公共政策の修士号を持つ。ご意見・ご感想は、toruoga16@gmail.comへ。

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