Vol.3 ジェファソンが情熱を注いだ建築美
シャーロッツヴィルのモンティセロとヴァージニア大学
− ヴァージニア州 −

文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito)

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2018年1月現在、167カ国で1073件(文化遺産832件、自然遺産206件、複合遺産35件)が登録されている。

約40年かけて完成させた美しい邸宅「モンティセロ」
©︎Ali Zaman

ヴァージニア州のほぼ中央に位置するシャーロッツヴィルは、人口4万5000人ほどの小さな市。この地には、アメリカ独立宣言の起草者であり第3代アメリカ合衆国大統領でもあるトーマス・ジェファソンが設計した建築物が保存されている。ジェファソンの邸宅だった「モンティセロ」と、彼が創立した学問の場「ヴァージニア大学」だ。

ジェファソンは政治家としてだけでなく、建築家としても優れた才能を持ち合わせていた。彼が手がけたこれらの建築物は、ネオクラシック(新古典主義)様式を採用している。18世紀中頃にヨーロッパで興った、古代ギリシャ・ローマの建築スタイルを復興させた様式だ。モンティセロとヴァージニア大学は、古典建築や18世紀後半のヨーロッパ建築に対するジェファソンの熱心な研究成果を表しているとともに、ネオクラシシズムへの多大なる貢献を示す傑作として、1987年に世界文化遺産に登録された。

町の南東、木々に囲まれた丘にひっそりと佇むモンティセロは、1769年に建設が始まった。その後、再設計、増改築を経て現在の姿が完成したのは1809年。赤レンガ造りの建物には中央に白いドーム天井が据えられ、ドーリア式円柱で支えられたポーチコ(玄関)や左右対称のデザインなど、古代ギリシャ・ローマ建築の特徴を示す造りが見られる。内部にはダイニングや寝室、書斎、ジェファソンの私室など、30以上もの部屋を配置。現在は内部を見学できるツアーが実施されており、スタッフがていねいにガイドしてくれる。

モンティセロはジェファソンの私邸であり、大農園でもあった。邸宅を囲むように広がる農園は5000エーカーにも及ぶ。今も家の周辺にはフラワーガーデンや野菜畑、果樹園などが広がり、四季折々の美しい景色が来場者を楽しませてくれる。

モンティセロの各部屋では、当時の生活の様子が再現されている
©︎Philip Beaurline

ヴァージニア大学が位置するのは、モンティセロから約5マイルほど離れた町の西側。人生のプロセスである学問に、学生と教師がともに生活の一部として取り組めるようにとの思いをこめて、ジェファソンはこの大学を「アカデミカル・ビレッジ」と呼んだ。そのランドマークとなっているのが、敷地の中心に配置された図書館「ロタンダ」。ジェファソンが設計した建物で、イタリア・ローマにあるパンテオン神殿をモデルにしたものだそうだ。白いドームと赤レンガ造りがモンティセロとよく似ている。図書館の前には芝生が広がり、その両側にはクラスルームと学生や教授の住居棟が並ぶ。ジェファソンはこの小さなエリアに、彼が目指す希望の村を作り上げたのだ。

ロタンダの建設は1822年に始まり、1826年に完成。そのすぐ後、同年7月4日にジェファソンはこの世を去った。「ヴァージニア大学の父」としての偉業を果たした彼の願いは、今もこの地に息づいている。

学問に対するジェファソンの情熱の象徴「ロタンダ」
©︎Virginia Tourism Corporation

遺産プロフィール
シャーロッツヴィルのモンティセロとヴァージニア大学
Monticello and the University of Virginia in Charlottesville

登録年 1987年
遺産種別 世界文化遺産
https://home.monticello.org

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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