諦めない!
アメリカでの日本語教育

 日本語力が高いお子さんの場合、その保護者に見られる特徴としていえるのはまず、日常生活の中できちんとした日本語環境を整えているということです。幼児期には英語よりもむしろ日本語を重視している傾向が見られます。国際結婚のご家庭でも、お子さんの日本語がしっかりしている場合は、アメリカ人のご主人がお子さんの日本語教育に協力的なことが多いですよね。

 過去にあった例で、お母様が韓国人、お父様が日本人で、ご両親はともに英語が堪能なご家庭のケースで、毎晩、韓国語の絵本を2冊、日本語も2冊、英語も2冊、最低6冊の本を読み聞かせしているという非常に教育熱心な親御さんがいました。そのご家庭の場合は言語だけでなく、それぞれの言語の背景にある文化もお子さんに教えていました。さらに、お父様がお子さんに日本語で話しかける時は、丁寧な言葉遣いだったことが印象に残っています。たとえば「きちんと顔を見て、お話ししましょう」などと話していましたね。

 逆に親子間の日本語の会話でのタブーは、日本語のなかに英語を入れてしまうことです。「あのレッドのカーが」などとは絶対に言わないでください。子どもはそれが日本語だと誤って受け止めてしまいます。

 また、まだ子どもの日本語がたどたどしい段階で、無理にひらがなの勉強を始めることなどもやめた方がいいと思います。本人がやりたがっていれば始めてもいいのですが、「周囲がひらがなの勉強を始めているから」というだけの理由でお子さんに強制すると、本人は混乱してしまいます。知識だけに走らないようにしていただきたいと思います。

 家庭でどのような日本語の本を読ませるべきかについては、韻を踏んでいる「ノンタン」のような本は子どもが楽しく読めるでしょうし、また「しまじろう」といった副教材も非常によくできています。漫画やアニメもいいですね。『ちびまる子ちゃん』のようなアニメを見ると、玄関で靴を脱いで上がるといった日本の習慣が分かるので役に立つと思います。子どもは意外と細かいところを見ていますから。

 日本で生まれアメリカで育ち、日本の有名大学に入学した生徒のご家庭では、1日中、TV JAPANをつけていたそうです。家の外に一歩出れば、そこは英語の世界。ですから、家の中では日本語のテレビ番組を流すことで、いつも日本語が耳に入るようにしていたというわけです。

 お子さんをバイリンガルにすることのメリットですが、これは将来、バイリンガルになると楽しいことがたくさんあるということに尽きるのではないでしょうか。しかし、そこに行くまでには尋常ではない努力が必要です。子ども自身が挫折してしまうか、それとも親が諦めてしまうか、どちらが先か分かりませんが、少なくとも言えるのは、ぜひ親として「子どもに求めるバイリンガルのゴール」がどの辺りかを見極めることを意識していただきたいです。日本語を話せて聞けるだけでいいのであれば、子どもにそれほど負担がかからない程度に続けることが可能です。さらに上の学習言語まで含めて高いゴールを課すのなら、親子で真剣に取り組まなければなりません。

 ここで気に留めていただきたいのが、お子様の資質の問題です。英語だけでなく、日本語も習得するのが難しいケースもあります。3歳や4歳で、日本語を話そうとしているのだけど何を言っているか分からないお子さんもときどきいます。そのような時に「うちの子は大丈夫」と思い込んで、高いゴールを設定するのは非常に危険だと思います。周囲と比較することなく、お子さんのことだけを考え、日本語学校や補習校の先生と相談するなどアドバイスを求めていただきたいと思います。

【回答者】ジョンソン 奈緒美

ダラス補習授業校幼稚部教師。南カリフォルニアに14年間居住し、その間3人の子どもたちの子育てをしながら「母乳育児の会」のボランティアに従事した後、子育てが一段落した頃に日系幼稚園に勤務。テキサスに移転後は補習校幼稚部に勤務し11年。日本語のプリスクールの経営にも携わる。

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