厳選された至上のレストラン第8回
〜Imperial Tea Court(San Francisco Ferry Building)〜

日本からの食材を積極的に使っているお店を応援しようという趣旨のもと、アメリカ国内の様々なレストランを紹介していく。

アメリカの茶業界の第一人者

サンフランシスコのフェリービルディングの1階にある「インペリアル・ティーコート」。対岸のバークレーにもお店を構えている

サンフランシスコと対岸の町を結ぶフェリーの発着場、フェリービルディング。その1階にはグルメのお店や最先端のオシャレなお店が数多く入っており連日大賑わいだ。その一角にあるのが「インペリアル・ティーコート(Imperial Tea Court)」。アジア系住民の多いここサンフランシスコ・ベイエリアは全米でもお茶の消費量が多く、いわばアメリカの“お茶の首都”。多くのお茶の専門店があるが、インペリアル・ティーコートはそのなかでも「老舗中の老舗」と誰もが認める。

お昼時になると近くのオフィス街からランチに来る人や、買い物の合間に一息つくお客さんで賑わう

オーナーのロイ・フォング氏は子どもの頃、香港からサンフランシスコへ家族とともに移住。まだ香港にいた6歳の頃、通学途中、工事現場で働く労働者たちが休憩時に楽しんでいるお茶の香りに惹きつけられた。その鮮烈な印象は大人になっても消えることなく、ついに1993年のアメリカ独立記念日7月4日、妻のグレースさんとともにサンフランシスコのチャイナタウンにインペリアル・ティーコートを開く。

「それまでは、車のレッカー移動の会社を経営していましたが、いつもお茶のことが心から離れなくて。ついに意を決し、会社をたたんでお茶の道に進むことにしました」と言う。今ではサンフランシスコとバークレーの2カ所に店舗を構えるほか、レストラン等への卸売も手がけている。

インペリアル・ティーコートのオーナーのロイ・フォング氏。自社の店頭やネットショップで販売するほか、レストラン等への卸売も


彼はアメリカにおけるお茶の第一人者として全米で講演活動やテレビ・ラジオ番組への出演も積極的に行っており、お茶に関する記事を国内外の業界紙向けに書いている。2009年、“Great Teas of China”という本も出版した。 そのほかに、毎年11月に開催される「サンフランシスコ・インターナショナル・ティーフェスティバル(San Francisco International Tea Festival)」というSFベイエリア最大級のお茶のイベントも主催しており、押すに押されぬアメリカ茶業界の権威である。

店内はまるで中国の伝統的なティーハウスにいるかのようなしつらえになっており、訪れた人がゆっくりくつろげる雰囲気が漂う

日本産のお茶の人気の理由

インペリアル・ティーコートでは現在、中国茶を中心に1ポンド(453.6g)あたり25ドルの普段飲みのお茶 (Everyday Oolong Tea, Everyday Tie Guan Yin Teaなど)から、ポンドあたり800ドル するImperial Lotus Heart Dragon Well Tea(龍井茶の最高峰)まで、常に300種類以上取り扱っている。

「通常スーパーなどで買えるお茶と比べると、決して安くない価格です。でも、僕は本当においしいお茶を飲んでもらいたい。色が違う、香りが違う……おいしいお茶には理由があります。それをお客さんにきちんと伝えなければならない」と、ロイ氏は言う。

中国や台湾のほか、日本、インド、スリランカ等からもみずからが厳選したお茶を自社輸入している。「年に数回お茶の産地に足を運び、納得したものだけを輸入しています。お茶の業者と愛好家とは違います」。お茶の産地に行くときは、必ず事前にその土地の文化や風習、気候、地質、歴史、食べ物、その年のコンディションなどを細かく調査する。そのうえで畑を見、生産工程を観察し、生産者と納得するまでとことん話し合うという。

中国産のほか、台湾産、スリランカ産、日本産などの茶を常時300種類以上販売。品質の高い日本産の緑茶は人気が高い

「点てられた、いま目の前にあるお茶だけでなく、そこに至るまでの過程、翻ってそのお茶が産地ではどう飲まれているか、どういう意味をもっているかまで知って初めて、そのお茶を売ることができるのです。お客さんが購入するお茶のすべての情報を知り、伝える義務があるのです」

「日本産の緑茶は一般的に品質が高いというイメージがあり、人気があります。お手頃価格の玄米茶が今のところ一番人気ですが、煎茶や抹茶もよく売れています。日本産のお茶は値段が高いというイメージがありますが、それは必ずしも当たっていない。日本産より高い中国産のお茶もあります。個人的に親しくしている京都の宇治の生産者がおり、そこの高級玉露は1ポンドあたり720ドルですが、売れています。売れないのはお客さんに伝えきれていないから」とロイ氏。

ただ、なかなか日本産のオーガニックのお茶がないのが悩みのタネとのことだ。「僕が扱うほとんどのお茶はオーガニックです。日本産のオーガニックのお茶はもともと限られている。あっても輸出できないほど生産量が少なかったり、僕の規格に合わなかったりで、適当なものがなかなか見つからない。常に探しています」。

お茶を通じて、文化も伝えたい

キッチンではRoy氏の奥さんGraceさんのレシピをもとに、専門のスタッフがイートインとテイクアウト用の料理 を手作りしている

「僕は品質の高いお茶しか取り扱いません。ロイのところに行けばおいしいお茶が買えるとお客さんに思ってもらえていますが、やはりお茶を理解してもらうには実際に飲んでもらうのが一番の早道です」お店ではスタッフが点てたお茶を試飲できる。試飲料は5ドル。「本当は無料でもいいのですが、無料だとお客さんは本気でお茶に向き合ってくれない。あえてお金を取ることで真剣にお茶のことを学んでもらいたいんです」。

また、お茶を通して文化も知ってほしいという。ティーハウスなのに、ちょっとしたレストラン並みに充実した食事のメニューがあるのはそのためだ。「 お茶と一緒に、フレッシュでオーガニックの食材から作る本物のおいしい中華料理をたくさんの人に味わってほしいんです。残念ながらアメリカの中華料理には“なんちゃって”が非常に多い。なら、自分の店で本物を味わってもらおうと思ったんです。最初はディムサム(点心)だけだったのに、次第に種類が増えちゃって、今ではちょっとしたレストラン並みのメニューになってしまった」と笑う。

毎日専門のスタッフが、オーガニックの素材を使って店内のキッチンで一つひとつ手作りしている。それらは店内で食べることもできるし、テイクアウトができるアイテムもある。「アジアでは食事と一緒にお茶が飲まれてきた。だから、お茶と食事のペアリングは重要なテーマです。現在、お茶と料理のペアリングの本を執筆中。完成時期は未定ですが」。

人気メニュー「Dragon Wall Dumplings(龍井茶入り蒸し餃子)」と「Baked Spring Roll (焼き春巻き)」。餃子は同店で売られている高級茶のDragon Wall(龍井茶)で味付けされている

「Teahouse Spicy Noodles(インペリアル・ティーコート特製スパイシー麺)」。写真はベジタリアン用だが、ポーク、ビーフなどお肉の種類が選べる

「Hand-Stretched Noodles with Beef (牛肉入り手延べ麺)」は、バークレー店でその日の朝に作られた麺のドゥを、注文を受けてから手延べして作る

今後取り入れたい日本産の食材

「オーガニックで高品質の日本茶があればぜひ。また日本茶を点てる茶器や日本茶とともに楽しめる茶菓子、スナックがあれば、それにも興味があります」とロイ氏は言う。

「日本茶をもっと広めるには『オーソリティー』(日本茶全体を代表する人や団体)が必要だと思うんです。中国のTea Research Institute of CAAS (浙江省にある1958年設立のお茶の研究機関)や、ちょっと意味合いは違いますがインドやスリランカのティーボーイ (Tea Boy)のように。その人や機関が中心となって“日本茶”のエデュケーションや宣伝活動をして行けばいいのでは、と思います。実はまだまだ日本茶のことを理解している人は少ない。同じ緑茶でも、一般の人は中国産 の緑茶と日本産のそれとの違いを知らずに飲んでいると思います。 種類、産地、生産方法、歴史、飲み方などなど、もっと広く理解してもらうことが日本茶の需要を作り出すのに必要なのでは、と思います」

利き茶の手順をお客さんに教えるRoy氏。アメリカ人にもっとお茶のおいしさや奥深さを知ってもらいたいと言う


 

写真:©︎2017 Akiko Nabeshima http://www.akikophoto.com/

 

Imperial Tea Court (サンフランシスコフェリービルディング店)
日本産食材サポーター店

■住所:1 Ferry Plaza #27, San Francisco, CA 94111
■電話:415-544-9830
■ホームページ:http://www.imperialtea.com
※Berkeley(CA)にも店舗あり

日本産食材サポーター店認定制度

日本農林水産省が定める制度で、日本産の食材や酒類を積極的に使用し魅力を伝えているお店を日本産食材サポーター店として応援する制度が米国でも始まりました。日本産食材の輸出を促進する事で、日本の生産者や食品事業者を支援していくものです。今後もこのコラムで、日本産食材を取り扱うお店やレストランをご紹介していきます。対象は全米の食品小売店と飲食店です。ご推薦のお店やレストランがございましたら、是非ご連絡お願い致します。


日本産食材サポーター店認定制度の農林水産省ウェブサイト
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/syokubun/suppo.html
日本産食材サポーター店認定制度のジェトロウェブサイト
https://www.jetro.go.jp/agriportal/supporter/

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鈴木優子 (Yuko Suzuki-Bischoff)

鈴木優子 (Yuko Suzuki-Bischoff)

ライタープロフィール

大学卒業後、リクルート社勤務を経て1992年渡米。1994年にシカゴのノースウエスタン大学ケロッグビジネススクール卒、MBA。ニューヨークのペプシコ本社、カリフォルニアのE&Jガロワイナリーでマーケティング・ディレクターをしたのち、2004年独立。現在、スズキ・マーケティング社およびヴィネジア社の社長として、 マーケティングコンサルティング業務とワインの輸出・マーケティング業務に携わっている。スズキ・マーケティング社は2013年よりJETROサンフランシスコ事務所の食品担当コーディネーターとして、北米に進出を希望する日本企業の支援業務を実施。さらに日本産食材サポーター店の公式認定団体として、サポーター店の認定およびサポート業務も行う。
ワインのほか日本酒と焼酎が大好きで、JETRO-LA主催の焼酎輸出促進協議会メンバー。夫と娘、2匹の犬とともにサンノゼに在住。

ベイエリア・日本産地食材サポーター店ホームページ:
http://www.japanesefoodsupportersf.com/

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