Vol.4 地球が創造する大地の芸術
グランド・キャニオン国立公園
− アリゾナ州 −

文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito)

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2018年1月現在、167カ国で1073件(文化遺産832件、自然遺産206件、複合遺産35件)が登録されている。

コロラド川が造り出した峡谷の浸食は今も続いているという。写真はマーサ・ポイントからの景観
©NPS/W. Tyson Joye

アリゾナ州の北部に位置するグランド・キャニオン国立公園は、毎年500万人以上の観光客が訪れるアメリカ屈指の観光地。それもそのはず、ここではほかに類を見ない自然の造形美を見られるのだ。見渡すかぎり広がる大峡谷はおよそ120万エーカー、谷底までの深さは最大で約1マイル、幅は0.3〜18.6マイルにも及ぶ。その圧倒的なスケールは、まるで大自然が造り出した壮大な大地の彫刻のよう。

この雄大な景観を形成しているのは、コロラド州内のロッキー山脈に源を発し、グランド・キャニオンを通って南西へと流れるコロラド川だ。くねくねと進む川の流れがおよそ600万年かけて大地を浸食し、複雑に入り組んだ地形を造り上げた。切り立った崖と深い谷、そして周囲を彩る川、森、砂漠、滝など、類例のない景観が評価され、1979年に世界自然遺産に登録された。

この峡谷が重要視されるもう一つの点は、地質学的魅力。川の流れによって徐々に削られてできた断崖では、約20億年前の先カンブリア時代から古生代、中生代、新生代とすべての地質時代の地層が露わになっている。とくに先カンブリア時代と古生代の地層面からは無数の化石群も見つかっており、地球上の生命進化の記録を示す顕著な見本として高く評価された。広大な峡谷はさながら「地球の年代記」のように、この惑星の長い歴史を私たちに物語ってくれているのだ。

谷底を流れるコロラド川から見上げる景色も圧巻 ©NPS/Mark Lellouch

グランド・キャニオン国立公園には入口が2カ所ある。サウス・リムは1年中開いており、ビューポイントが多い。ビジターセンターの裏には人気の絶景スポット、マーサ・ポイントがあり、近くにはグランド・キャニオンの成り立ちが学べるミュージアムに隣接して、ヤバパイ・ポイントという見どころも。ビジターセンターから東側へ向かうと、蛇行するコロラド川の姿がよく見えるポイントが点々と連なり、東端のデザート・ビューからは360度の大パノラマを望める。またサウス・リムの西端にある休憩所、ハーミッツ・レストへ行く途中にも多くの見どころが点在。サウス・リムでは各ポイントをめぐるシャトルバスが走っているので、移動も簡単だ。

一方、ノース・リムは初夏から秋にかけての期間しか開いていない。訪問客が少ない分、落ち着いて静かに景観を楽しめるのが魅力だ。見どころは広範囲に散らばっているので、気長にドライブしながら回るといい。ハイキングでしかたどり着けないビューポイントが比較的多く、アメリカの先住民であるプエブロ族の祖先の遺跡などもある。どの入口から入るかによって見える景色も魅力も異なるので、事前によく調べて行こう。

せっかく来たならハイキングやサイクリング、川下りなどのアクティビティもおすすめ。生物の多様性も世界遺産の評価点となっているように、ここには2000種を超す動植物が生息しているという。雄大な自然の中で息づく大地の神秘を、全身で体感しに出かけてみてはいかが。

アクティビティに参加すれば、野生動物に出くわすことも©NPS/Michael Quinn

遺産プロフィール
グランド・キャニオン国立公園
Grand Canyon National Park

登録年 1979年
遺産種別 世界自然遺産
https://www.nps.gov/grca/index.htm

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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