声を上げれば社会は必ず変わっていく
作家 山元加津子さん

Text & Photos by Keiko Fukuda

PEOPLE SPECIAL
様々な業界で活躍中の話題の人に、過去、現在、そして未来について聞く。

作家の山元加津子さんが、2018年5月に映画上映会と講演会でサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークを訪れた。5月13日、母の日に開催されたロサンゼルス郊外での講演会の一部と、その後のインタビューをお届けする。

かっこちゃんの愛称で親しまれる山元加津子さん

講演会から

(特別支援学校の)子どもたちは大切なことを教えてくれました。きいちゃんは、生まれてすぐ高い熱が出て障害を負い、3、4歳で施設に入りました。「どうせ私なんて」と言うのが口癖。気がかりでした。ある時、職員室にいる私のところに来て、「お姉ちゃんの結婚式に出るんだ」って言いました。私も「よかったね」って。ところが、数日後に泣いているきいちゃんを見つけました。「お母さんが私に結婚式に出ないでほしいって言ったの。お姉ちゃんばっかりかわいいのよ」って。お母さんは決してそんな方じゃありません。きいちゃんが結婚式に出ることで肩身の狭い思いをすると思われたのかもしれません。

私は「お姉さんにプレゼントを作らない?」と提案しました。そうしたら、きいちゃん、着物を縫いたいと言ったの。ビックリしました。浴衣だったら縫えるかもしれないと始めました。でも、きいちゃんは手に重い障害があったから、縫ううちに布が血で染まりました。でも「大丈夫、大好きなお姉ちゃんのためだから頑張るよ」って。授業中もずっと縫っていました。完成してお姉さんに送ったところ、結婚式に私にも出てほしいっておっしゃったんです。お母さんに電話したら、「あの子の姉がどうしてもと言うので出てやってくれませんか」とおっしゃいました。

でも、会場に車椅子のきいちゃんが入っていくと、ひそひそ声が聞こえました。「誰があんな子、連れてきたのか」「赤ちゃんが生まれたら障害を持つのでは」。やっぱり結婚式に来なかった方が良かったのかもしれないと思いました。

お色直しの時、お姉さんはあの浴衣を着ていました。そして、こうおっしゃいました。「皆さん、この浴衣を見てください。妹は高熱が出て障害を持つようになり、両親と離れて暮らしているので、一緒に暮らしている私を恨んでいるのでは、と思っていました。でも、浴衣が届いた時に涙が止まらなかったんです。妹は私の誇りです」。会場に拍手が起こりました。きいちゃんは恥ずかしそうだけど、嬉しそうでした。笑顔が輝いて見えました。

脳幹出血でみやぷー(特別支援学校時代の同僚の宮田俊也さん)が倒れました。9年くらい前のことです。出血が広範囲で、即死でもおかしくなかったんです。妹さんから電話がかかってきました。「3人のお医者さんはこのまま死なせてあげなさいって言って、一人だけが人工呼吸器で助かるかもしれないけど目を覚まさないって言うの。かっこちゃんどうしよう」と。 私は高速で1時間以上かけて、リハビリのために毎日通うことにしました。3日目に集中治療室に行ったら、お医者さんに「一生植物状態です」と言われました。

一般的な常識では、こんな重い脳障害の方は聞こえてないし、理解してないと思われているでしょう。でも学校の子どもたちが教えてくれた子はそうではありません。「先生、大丈夫です」と言いました。私はみやぷーに毎日、話しかけ続けて、意識を取り戻すためのリハビリをしました。私は知っていました。脳が回復していることを。そして、今、彼は一人暮らしをしています。

そういう状態になると、たくさんの方が回復を諦めます。それはとても残念なことです。そこで私は白雪姫プロジェクトを立ち上げました。白雪姫は一度リンゴを食べて倒れちゃうけど、王子様と会って蘇ったのです。大事な人に「もしも、自分が倒れたら白雪姫プロジェクトを見てね」と今から伝えておいてください。

インタビュー

昔と今で日本の障害者を取り巻く環境は変わりましたか?

以前は養護学校の子どもが素晴らしい絵を描いても、本名で発表することがほとんどありませんでした。でも今はお顔も出して名前を出して、「この作品が素晴らしい。作者にたまたま障害があった」というようになりました。

こんなことがありました。遠足でジャスコ(現在のイオン)に行ったんですね。子どもたちがウンチをしたので、トイレで着替えようとしました。私たちは床にブルーシートを敷いて、その上でオムツ替えをしました。でも、ベッドでないとやはり子どもたちも私たちも大変です。たまたま、お客様の声のコーナーがあったので、「せっかくトイレが広いので、簡単なベンチかベッドがあったら、着替えができます」と書きました。すぐ連絡があって、「障害者用の駐車場があれば、障害者の方も来て、オムツ替えが必要だったのに、そのような設備まで思いが至らなかった」と言ってくださいました。それでどんなベッドがいいかを聞いてくださって、すぐに簡単なベッドを入れてくださったのです。誰かがそうしたいと思って声を上げれば、社会は必ず変わっていく、私はそう信じています。

アメリカの印象は?

人種が違ったり、お国が違ったりするたくさんの人が共存している場所。お互いの違いを受け入れることができる、そういう国だと思います。私のように昨日今日、アメリカを訪れたような人にも、にっこり笑いかけて優しくしてくれる人々が住む、懐の深さを感じます。

講演会と上映会を主催したジョー・マスダさん(左)と井上小夜子さんとともに

PROFILE
山元加津子(やまもとかつこ) 石川県金沢市出身、富山大学理学部卒業。石川県立明和養護学校の教諭時代から、文筆、講演、映画、イラストを通して障害をもつ子どもたちへの理解を訴え続けている。

白雪姫プロジェクト:
http://www.shirayukihime-project.net

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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