「日本で経験後に渡米」が正解だった
役者への気配り、雰囲気作りも重要

高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

Photo © Keiko Fukuda

ヘアメイクアーティスト 松本 安芸子

学生時代はバスケットボールと陸上競技が得意でしたが、もともと抱えていた膝の故障が原因でアスリートになる夢は断念し、東京都内の山野美容専門学校に進学しました。

卒業後は舞台俳優のヘアメイクに携わる会社に入社、新人時代からスターのメイクを担当するようになりました。最初はヘアメイク、ウィッグ、ヒゲが主な担当でしたが、『オペラ座の怪人』のメイクに強く惹かれて、特殊メイクもやりたいと思うようになりました。ところが特殊メイクの部署への異動を上司に掛け合ったものの却下されてしまい、ならば本場のハリウッドに行ってゼロから勉強しようと決断、1990年に当初は半年の予定で渡米したのです。今と違ってインターネットが(身近に)ない時代でしたから、情報をほとんど得られないままやって来ました。英語に関しても、浅はかにもホームステイすれば喋れるようになる、って思っていたんですよ(苦笑)。

英語学校を経て、メイクスクールに入学。そこでコネクションをつかみ、初めは主に日本のコマーシャル撮影に声が掛かり、ヘアメイクのアシスタントとしてスタートを切りました。そして、現在までに関わった作品数は映画だけでも70本を超えます。しかし、今でも英語には苦労しています。現場でのたわいのない会話でも、昔のテレビ番組や政治経済などの難しい話題になると静かになってしまいますね。

寺島しのぶ主演映画で
カンヌに同行

役者さんとは長時間、間近で過ごすので、雰囲気作りも大切です。あるコマーシャルの仕事では、ある女優さんが自分の髪型に結構こだわる方で、なかなか本人が納得しませんでした。最終的に本人と監督にOKもいただき、撮影は無事終了しました。そうしたら翌日、その女優さんから「あなたは絶対諦めなかった。私のためにたくさんの時間を使ってくれてどうもありがとう」という感謝のテキストメッセージが届いたのです。「ありがとう」と言ってもらえると、どんなに大変な仕事でもやっていてよかったと思えます。

また、私の場合は日本で経験を積んでから渡米したことが正解でしたが、それでも仕事をするうえでの日米の違いは実感します。たとえば、過去にこんなことがありました。ある映画で、監督との打ち合わせを事前に済ませていたので、最初のミーティングで私は全然発言しなかったんです。そして撮影初日、一段落ついたところでプロデューサーが私に謝ってきました。どういうことかというと、ミーティングで黙っていた私を見てバカだと思ったが、4、5人のアシスタントと猛スピードで現場を回す私を見て、すごい! と考えを改めたと言うんです。確かに、スピークアウトしないのが日本人の悪い癖ですよね。しかし、それを機に私はできるだけミーティングの場で発言するようになりました。今はそのプロデューサーに感謝しています。

最近関わったのは、平柳敦子監督の映画『オー・ルーシー!』です。同作は2017年カンヌ国際映画祭にノミネートされ、私は寺島しのぶさんのメイク担当としてカンヌまで同行させていただきました。アメリカの撮影現場ではてんやわんやでしたけれど、このような作品に関わらせていただけたことにとても感謝しています。

『オー・ルーシー!』が出品されたカンヌで

My Resume

氏名:松本安芸子(Akiko Matsumoto)
現職:ヘアメイクアーティスト
取得した資格:日本の美容師免許、Vidal Sassoon diploma in London、Union Local 706
ビジネス拠点:ハリウッド
その他:ウェブサイト www.Akikoface.com

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