専門家に聞く
帰国生受験の傾向と準備

Text by Keiko Fukuda(SAPIX 国際教育センター、駿台国際教育センター) Haruna Saito(ena国際部)

大学受験
University

ここ数年の入試傾向

大学の帰国生入試 におけるここ数年の変化について、駿台国際教育センターの高島秀行さんは次のように説明する。「日本の入試制度自体が多様化しており、英語重視の傾向が強まってTOEFLなどの語学試験の提出を必須とする大学が増えています。 また、AO入試の実施大学、学部が増えた結果、帰国入試がAO入試に統合または廃止となるケースも増えました。国際化によって日本国内にも国際感覚や十分な英語力を持つ学生が増えたことから、帰国生だけにそれらを求めなくてもいいという大学側の姿勢の表れとも捉えられます。ただし、海外における貴重な体験は日本国内の学生には経験できないことですから、帰国生入試やAO入試においては、その部分を強調することが今後は特に重要となります」。

大学入試ではこれまで以上に「海外における貴重な体験」が重要視される傾向があるようだ。さらに、国際色を強調する学部が近年多く開設されているのも、ここ数年の 日本の大学の間接的な変化だと高島さんは説明する。

「青山学院大学の地球社会共生学部、学習院大学の国際社会科学部などです。学習院の同学部に関してはAO入試のみの実施で、帰国生入試はありません。また、2019年度には東京外国語大学に国際日本学部が誕生します。英語力や海外体験が生かせる学部を受験するチャンスが増えたと言えます。さらに今後も、センター試験の英語の改定や外部語学試験の導入、主体性や協調性の重視など、一般入試においても帰国生にとって取り組みやすい環境が整っていくものと予想されます」

異なる対策と求められるもの

大学入試は国立・私立 によって対策が異なる。「国立に関してはレベルにもよりますが、日本語の実力は重要な評価対象となります。特に小論文対策が重要。漢字の読み書きができるのはベースラインで、あとは日本語で論理的に説得力のある文章を書く力が必要となります。日記程度ではなく、きちんと順序を踏まえた論理的な文章を書く力を身につけておきましょう」とアドバイスするのは、ena国際部の高橋清志さん。対策としては、定期的に過去の受験問題集から小論文や作文の課題に挑戦することが良いという。「問題の多くには課題文がついていて、その内容に沿って書かなければならないので、普段使わない語句を使って語彙を広げる練習になります。また、読書も有効。自分が入りたい学部の分野に関係のある本を、必ず数冊は読んでおきましょう」。

文系・理系での違いはどうだろうか。「文系であれば基本的に英語、国語、小論文ができていれば問題ありませんが、理系は話が別です。帰国生入試であっても、現地校の勉強のやり方では日本の大学入試の理数科目の問題は解けません。早い段階から、できればハイスクールに入学した時点から、日本の高校理科の勉強に取り組んでおくことをおすすめします」。

大学受験で帰国生に求められる要素として重要なのが、英語力と日本語力。帰国生入試では、語学の成績と面接、そして小論文が評価対象となる。「英語に関しては、TOEFLのスコアが必須です。最低水準は70点、あとは大学レベルによって必要なスコアを確認して、クリアできるようにしておきましょう。SATスコアの提出は要求しない大学もありますが、『提出が望ましい』としている大学には必ず提出すべきです。慶應義塾大学を志望するのであれば、1350点以上が必要となってくるでしょう。日本語力としては、小論文を書く文章力とともに面接でアピールする力が必要。日本語力は入試だけでなく、入学した後の授業や定期試験でも重要です。そういった意味では、入学後も授業についていけるだけの十分な日本語力を身につけることが大事」と、高橋さんは言う。

駿台国際教育センターの高島さんによると、大学が帰国生に求める主体となる要素は3つ。「語学能力、論理的思考を含む表現力、そして大学での学びに必要な基礎学力です。 語学力には、TOEFLなどの語学試験の成績や日本語での小論文が含まれます。表現力は小論文や面接において重視されます。基礎学力は特に理系の学生に強く求められ、学科試験で大学入学後の学びや研究にきちんとついていくことができるかどうかが測られます」。

準備に関して、高島さんは「多くの場合は最終学年の1年を十分に使い、受験年の5~6月までに語学試験を出願に適うスコアまで引き上げます。アメリカ教育制度の学生が慶應義塾大学に出願する場合は、SATのスコアとTOEFLのスコアの提出が必須です。海外滞在期間にもよりますが、通常は最終学年で取り組んでも十分に間に合います。ちなみにSATとTOEFL、ともに受験年の6月までのスコアも有効です。日本語に関しては、英語での学びを優先したうえで、時間的余裕が見つけられれば読書、ニュースのチェック、社説の書き写しなどで維持伸長を図ります。また、読書やニュースなどで得た知識をもとに、ご家庭などで日本語でそのトピックについて話し合うことも有効だと考えられます」とアドバイスする。

入学時期と受験準備

6月、帰国生たちは海外の高校を卒業し、日本に戻ってくる。駿台国際教育センターではそのタイミングに合わせて大学受験対策講座を開始する。早いところでは9月から入試が始まるため、「まさに短期決戦」だと高島さんは言う。しかし、前述のようにそれより前の段階で準備を開始すべきであるとも強調する。
「アメリカの高校では、シニアの中期から後期、現地の生徒たちの進学先が決まり落ち着いた雰囲気になると聞きます。それによって、日本の大学の入試を受ける帰国生たちの気が抜けることも少なくないようです。緊張感を保つためにも早めに入試対策の塾や予備校に連絡を取り、登録者専用の情報ページにログインして情報を収集したり、カウンセラーにメールで相談したりするなど、 準備を心掛けましょう。卒業する年の1月が開始時期としてはおすすめです」

4月入学以外にも帰国生にとって嬉しいのが、英語で学ぶコースを設置した9月入学の大学学部が増加中だという点。国際基督教大学(ICU)、上智大学、 早稲田大学、慶應義塾大学などに秋入学の学部がある。その場合、高校を6月に卒業した帰国生も、夏休みが終わった9月に入学できる。ただ、ena国際部の高橋さんは、9月入学はあまりおすすめしないと言う。「国際基督教大学は6月卒業も実施されていますが、早稲田大学教養学部はまだその制度が整っておらず、3月卒業となります。そうすると、9月に入学したら半年長く大学に通わなければいけなくなります。さらに日本での就職を考えた時に、4月入社を基準に新卒の採用面接を行う会社がほとんどである現在、秋に卒業できたとしても入社のタイミングが合わなくなります。そう考えると、6月に高校を卒業して、翌年春入学の入試が実施される9月までの間、しっかりと勉強して望んだ方が効率的だと考えます」。

最後に、単独で準備に取り組むよりも予備校や塾で受験対策に臨むメリットについて、駿台国際教育センターの高島さんに聞いた。「まず、何事にも対策を立てるにはデータが必要ということです。当センターには毎年多くの帰国生が在籍するため、年度ごとの入試の傾向を事前に知ることが可能であり、また、過去の実績をもとに帰国入試特有の事例や、トラブルが起こった際の対処法など細かい点まで情報を提供することができます。もう1つは学習面。小論文などは講師が客観的に評価、指導することで短期間でも伸びが見込めます。ポイントを押さえた面接の練習も可能です」。さらに、どういう帰国生が短期決戦で伸びを見せるかを過去の経験から聞いた。「高い目標を掲げ、地道に取り組める生徒。そして、海外生活を通じて得られたことを自分なりに評価、分析し、思いを的確に伝えられる生徒だと思います」。

秋は目前、最終学年の生徒たちはスタートダッシュの時期を迎える。

帰国受験にも影響を与える?
日本の教育界を取り巻く変化
❶2020年度から現行の「大学入試センター試験」に代わり、新テスト「大学入学共通テスト」を実施。
・国語、数学に記述式問題を導入。思考力、分析力、表現力を問う内容になる。
・英語はマーク式の試験に加えて外部検定試験を併用。4技能(読む、聞く、書く、話す)を測る。
❷学習指導要領の改訂(異文化理解・コミュニケーション力)
小学5年生から英語を「教科化」。現在は移行期間中。
❸少子高齢化(外国人労働者数の増加)
英語の重要性が増し、大学だけでなく中高入試でも話す能力が試されるようになる。
❹シンギュラリティの到来
文・理系に関係なく数学的思考ベースの入試問題の出題率がアップする可能性大。

提供:SAPIX国際教育センター

取材協力
SAPIX 国際教育センター http://kokusai.sapix.co.jp
駿台国際教育センター http://www.sundai-kaigai.jp/kokusai/
ena国際部 http://www.ena-kikoku.com

1 2

3

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

この著者の最新の記事

関連記事

デジタル版を読む

フロントライン最新号
ページ上部へ戻る