第71回 アワードナイト

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

Photo © Keiko Fukuda

ニナのソフォモアの学年も残すところ2週間という6月頭の某日、高校で開催された「アワードナイト」に行ってきた。招待状には「あなたのお子さんが受賞することになった。家族友人で祝ってあげてほしい」とあった。スポーツのクラブに入っていないニナは、何か勉強で受賞するのだろうと推測。でも何の賞かは、当日、出席するまで分からない。

しかし、シャイというか、派手なことは苦手なニナ、「行かなくてもいいんじゃない?」と言う。「そんな! 親孝行だと思って一緒に行こうよ。ニナがステージで表彰されているところが見たい」とせがむ母親(私)。どちらが大人か分からない。

なんとか説得して、招待状にあった“dress to impress”まではいかないけれど、黒いワンピース姿のニナと夜の6時に講堂へ。500人は座れる会場は満席だ。表彰される本人に対して、家族が数人で詰めかけるのでイベントはいつもこうなる。

ニナは入り口で受け取ったプログラムで自分の名前を探す。「あ、チャイニーズ3でもらうんだね」とポツリ。確かにニナは中国語に熱心だ。先日の母の日のカードも全部中国語で書いてきた。その場で英語に訳してくれて意味が分かった。ロサンゼルス近郊の高校では外国語に日本語を選択できるところも多いが、ニナの高校に日本語はない。そこで韓国系や日系の生徒は中国語を選択することになる。ニナは中学で中国語を始めて、高校でも頑張っている。

皆勤賞も

式は、国旗を掲げた軍服姿の4名の生徒が壇上に登場して幕を開けた。全員、席から立ち上がって胸に手を当て忠誠の誓いを唱える。そして、軍服姿の生徒たちが退場するとともに、前方スクリーンに次々に賞のタイトルと受賞生徒の名前が映し出された。学年ごとの優秀スポーツマン賞に続き、「スカラー・アスリート」賞の受賞者が呼ばれる。何かと思えば、スポーツが優秀なだけでなく、学業も優秀、文武両道の生徒が選出されるようだ。司会の教師が受賞生徒のGPAも読み上げていく。

生徒の名前が呼ばれるたび、家族や友人が大きな声援を贈る。まるでアイドルのコンサート会場のようだ。しかし、ある賞の瞬間だけは、会場が一斉にシーンと静まり返った。それは昨年春、突然の病気で亡くなったバスケットボール選手の名前を冠した記念賞の発表の時だった。司会者は涙声になっていた。その先に明るい未来が続くはずだった高校生活の途中で、突然、病を宣告されて亡くなってしまった彼を偲び、皆が心を一つにしたように感じた。

さて、スポーツ部門の発表の次はアカデミック部門。各教科を受け持つ教師が選出した最優秀生徒が1名ずつ名前を呼ばれる。英語1、英語2、米国史と教科ごとに受賞者が壇上に上がる。ニナは前述のように中国語3の最優秀賞を受賞した。さらに皆勤賞も。スポーツや勉強ができるに越したことはないが、皆勤賞こそ褒めてあげたい。最近はいじめや孤立で不登校のこどもが少なくない。こどもが何の問題もなく、毎日、学校に向かうことは当たり前のようで、実は当たり前のことではないのだ。

最後は、シニアから男女1名ずつの「スチューデント・オブ・イヤー」の発表だ。名前だけでなく、スクリーンに卒業アルバム用の顔写真が映し出された。いわばアワードナイトの大トリ。男子生徒はスタンフォード大学でコンピュータサイエンスを専攻予定、女子生徒はUCLAでバイオケミストリーを専攻するのだそうだ。優秀さに目がくらむ。

式に参加してみての感想。アメリカの高校生はなんて大人っぽいんだろう、ということ。そして、APクラスも含めると、高校には実に多様な教科と細かいレベル分けがあることにも驚いた。ニナには「よく頑張ったね。お疲れさま」と声をかけた。説得して一緒に参加して良かった。親冥利に尽きるひとときだった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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