海外教育Navi 第13回
〜高校生を連れての渡航、滞在、帰国まで〜〈前編〉

記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団に所属するプロの相談員たちが一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.高校生を連れて海外赴任します。渡航前、滞在中、帰国時に気をつけなければいけないことを教えてください。

渡航前

本人の納得が必要

幸いなことに、高校生を海外に連れていって後悔しているという話を聞くことはあまりありません。しかし、それはリスクの大きさを考慮したうえで、無理だと思えば帯同しないという判断をすることが多いからかもしれません。

私の知るなかで気の毒だった例は、絶対にいやだという高校生を連れていったケースでした。アメリカのハイスクールに入ったものの学習も進まず、友達もできずという状態が続いて、ついに父親を残して帰国することになりました。意思に反して「親に連れてこられた」という意識では海外の苦しい環境に立ち向かうことは難しかったのでしょう。

高校生にもなれば、これまでの生活で積み上げてきた学習の成果や友達関係、部活動などいろいろな財産を持っています。それらから離れて新しい環境に移るためには、それなりの決意が必要です。「よし、行くぞ!」とまではいかなくても、少なくとも「行ってあげてもいいかな」くらいまでの同意は得ておく必要があるでしょう。

反面、本人に挑戦したい気持ちがあるのに慎重になりすぎ、あとになって「やっぱり行けばよかった」となるのも残念です。いくらか時間をかけて家族で話し合えば納得できる結論が出るのではないでしょうか。

状況が許せば、最終的な決断をする前に家族で現地を訪れ、学校訪問などをすることができれば理想的です。

海外の学校について知る

もしも身近に海外で高校生活を送った人がいたら、その体験を聞かせてもらいましょう。生徒自身の目線で海外生活を語ってもらうことで、生活を具体的に想像することができるでしょう。

これから通おうとする学校を卒業するために何が必要かは、ぜひとも知っておかなければなりません。ほとんどの高校で定められた科目の単位を修得することが卒業するための必要条件になっていますが、その内容や単位の数え方は国、あるいは学校区や学校によってかなり違います。

たとえばアメリカでは学校で履修するだけでなく州のテストなどに合格しなければならない場合もあります。多くの学校区や学校は、ウェブサイトにカリキュラムや卒業要件を載せています。州のテスト等のサンプルや過去問が公表されている場合もあります。これらを見ると目標を見定める助けになると思います。

進学のシナリオを

効果的に進学の準備をするためには年齢や滞在予定期間を踏まえて、ある程度の見通しを持っておくことが大切です。

海外で高校を卒業するかそれに匹敵する資格を得れば日本国内の大学を直接受験することができます。多くの大学は一般入試とは別に、帰国生が不利にならないような形の試験を実施しています。

卒業前に帰国すると、普通は日本の高校に編入して卒業することになります。このような場合でも一定の条件を満たせば帰国生入試での受験を認める大学や学部があります。具体的に受験したい大学が念頭にあれば、その大学の受験資格を調べてみるとよいでしょう。

募集要項は年度ごとに定められるものですから、つねに新しい情報に注意を払うようにしましょう。

「第13回 〜高校生を連れての渡航、滞在、帰国まで〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員
教育相談員
佐々 信行

2008〜2014年、啓明学園中学校高等学校校長。2001〜2008年、啓明学園初等学校校長。1992〜2001年、バージニア州グレートフォールズ小学校イマージョンプログラム教諭(同時にワシントン補習授業校教諭)。1971〜1992年、横浜市立小学校教諭(1974〜1977年、ハンブルグ補習授業校教諭)。長女はドイツ生まれ、長男はアメリカで中高を過ごす。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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