雇用者、労働者が知っておきたい
アメリカの雇用ルール

取材協力:吉田 大(ブラックベルト・リーガル弁護士法人 代表弁護士)

訴訟へと発展する主な要因は「差別」

アメリカでは、雇用主と従業員が揉めて訴訟に発展することが極めて多い。その主な主張となるのは、十中八九が「差別的な扱いを受けた」として訴えられるケースだそうだ。

日本ではほとんど見られないのに、なぜアメリカではこんなにも訴訟が多いのだろうか。それは、日本とはまったく異なる歴史的背景によるもの。アメリカには人種や宗教が異なるさまざまな人々が暮らしている。そのため、どうしてもマイノリティの人々が存在し、彼らに対して意識的または無意識的な差別が生まれてしまう。それらの問題を解決し、健全な社会としてすべての人々をフェアに扱うために存在するのが、弱者を保護するための法律だ。アメリカという国の背景を踏まえて行動・発言しないと、トラブルに発展する場合が多々あるので十分気をつけていただきたい。

アメリカの雇用における法律で複雑なのが、国が定める連邦法に加え、各州が定める州法、さらに市や郡が定める法令と、複数の層の法律が存在すること。連邦法は全州で最低限守らなければならないベースラインとなっており、それに上乗せする形で州や市、郡が独自の規則を定めている。市や郡によって大きく異なるので、リモートワークを含めて従業員が勤めているエリアの法律は把握しておこう。

下の表は、差別に関わる根幹の規則のカリフォルニア州における概要だ。

連邦法
人種、肌の色、宗教、出身国を理由とする雇用差別を禁止する(公民権法 Title VII)

カリフォルニア州法
Sexuality(LGBT)、男女の違い、Gender Expression、結婚の有無、従軍経験の有無などが禁止事例として盛り込まれている
※さらに、市や郡によって追加の規則が定められている場合が多い。

差別の有無は明確なラインが引きづらい。当人に他意がなかったとしても相手が差別を受けたと判断し、客観的に差別を主張しうる証拠があれば訴訟リスクは高くなる。日本では話のトピックにしても問題のないことが、アメリカでは差別に値するということが往々にしてある。あらゆるシチュエーションにおいて職場であるという意識を持ち、相手が日本人であっても言動や行動に注意することが大切だ。

実際に訴訟に発展した場合は膨大な証拠集めが必要となり、かなりの時間、労力、コストがかかる。常日頃から大きな訴訟にならないように注意すること。問題が拗れて訴訟へと発展しそうな気配があれば、早期から弁護士と相談して客観的な証拠を集め、訴えられても迅速かつ十分に対応できるようにしておくといい。

シチュエーション別
アメリカのマナー、ルール

採用段階や雇用中、解雇時など、さまざまなタイミングで日本とは異なるルールが存在する。ここではシチュエーションごとに日系企業が陥りやすいトラブルの種を、実例とともに紹介する。

人材採用時
Job Description
アメリカではプロフェッショナル意識が高く、自分のスキルに合った仕事へ応募するので、職務内容が記載されたJob Descriptionは非常に重要。従業員をJob Descriptionに記載された業務内容と大きく異なる業務へ従事させることは、雇用問題のリスクを高める。

応募するポジションに対して必要とされる能力の詳細や業務内容、期待値などを具体的かつ客観的に明記しておくことが重要。誰でもできるような曖昧な内容だと、採用見送りとした際に「この内容なら私にもできるのに断られた。判断に差別があったのでは」と突っ込まれる可能性があるので要注意。

面接での質問事項
日本では当然のように履歴書に書く項目でも、アメリカでは雇用機会均等法に違反するため、禁じられている場合が多い。採用するかしないかの判断材料として、個人の仕事に対する能力以外の部分で判断することは差別と主張されかねないので、不必要な質問をしないように細心の注意が必要だ。ただし、聞き方によっては問題ないとされることもある。

 

※カリフォルニア州ではさらに、結婚の状態や従軍経験、過去の給与や犯罪履歴(個人使用のマリファナの所持違反を含む)についても原則として質問してはいけない。たとえば、直接的に犯罪履歴を聞くのはNGだが、「あなたが応募したこのポジションに対して、ご自身に何か明確な問題点などがあると考えますか?」といった聞き方ならOK。

採用不採用の判断
日本の企業は長期的な雇用を目的としているため、人柄などの情緒的な部分で判断しがち。しかし、流動性が高く差別を禁ずるアメリカでは、すべての判断は客観的なスキルベースとなる。州によっては、過去の履歴を確認するバックグラウンドチェックによって採用を拒否することはできない場合もある。

たとえばカリフォルニア州では、求職者に犯罪歴があったとしても、仕事内容と関係ない履歴であれば犯罪歴を理由に採用を拒否することはできない。さらにサンフランシスコ郡は、20人以上の従業員がいる場合は候補者の犯罪歴を調べることも禁止されている。

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