第74回 アメリカの大学における中退問題

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

2018年の夏、UC系の6大学に合格したMさんに話を聞く機会があった。日本人の両親のもとにアメリカで生まれ育った彼女が合格したのは、UCアーバイン、UCサンタバーバラ、UCリバーサイド、UCサンタクルズ、UCデービス、UCサンディエゴ。そして、将来、ケミカルエンジニアを目指すというMさんが秋からの進学先に決めたのは、アカデミック分野で定評があるUCサンディエゴだった。

その後、話をした彼女の父親から次のようなエピソードを聞かされた。「Mにはスタンフォードを受けたらどうかとすすめた。しかし、本人に『たとえ合格したとしても、入学してからの勉強が大変だということが分かっているから。私はUCサンディエゴに行って頑張る』と言われた」。それを聞いた私は、Mさんがなんと賢明な女の子なのだろうと大いに感心したものだ。彼女は学業面で優秀だっただけではなく、日本語のバイリンガルでもあり、高校の女子水泳代表チームのキャプテンを務め、市営プールのライフガードと3つのボランティア活動を掛け持ちしていた。カウンセラーではない素人の私でも、「スタンフォード、受かったのでは?」と思えるほどの「ワオ! ファクター」(受験者としての有利な条件)が揃っていた。

しかし、「有名で憧れの大学」ではなく、「身の丈に合った、自分が学びたいことを学べる大学」をMさんは選んだ。ちょうどその頃、誰もが羨む一流大学に子どもが入学したものの、あまりのレベルの高さに苦労していると打ち明ける友人が何人も周囲にいたせいで、余計にMさんの賢明な決断が強く印象に残った。

2人に1人は卒業できない

昔から「日本の大学は入学するのは難しいが卒業は簡単。アメリカの大学は、入学は簡単だが卒業が難しい」といわれていた。しかし、最近は「アメリカの大学は入学も卒業も難しくなっている」のではないだろうか。

卒業がどれだけ難しいかは中退率で分かる。日本の大学の中退率は、文部科学省が2014年に行った調査で、1年間に2.65%、4年間で10.6%となっている。他方、2011年のハーバード大学による調査では、入学後6年間で4年制大学を卒業できない学生の割合は56%。ちなみに全米でもっとも中退率が低いのは、その調査元であるハーバード大学で、入学した学生の98%が卒業という数字を叩き出している。大学側が非常に慎重に選考しているから、だそうだ。

アメリカの大学での中退率の高さは、先進国ではずば抜けている。しかし、その理由は前述の「難しすぎる大学に入学したから」だけではない。非営利の調査団体、パブリック・アジェンダが600人超のアメリカの学生を対象に行ったインタビューで判明した、中退した理由のトップは「経済的な理由」だった。「学費と生活費を賄うために仕事と学業を両立することが困難だった」と答えた学生が目立った。希望の大学に合格したとしても、親の経済的援助が得られなかったり、補助金が十分でなかったりすると、結局、本人が学生ローンを借りて、かつ働きながら大学に通うことになる。そこで体力、気力的にギブアップしてしまう学生が少なくないのだ。

中退率が高い理由の2位は「学力的な問題」。合格した大学に入学した後、講義についていけるだけの学力がないとみなされると補習クラスを取らされる。アメリカの大学1年生で補習クラスを受講している学生の割合は、実に60%近い。そして、学力面で「ついていけない」ことを実感した挙げ句に、精神的に落ち込んでしまう学生も多い。その症状に陥るのは、女子学生よりも男子学生が多いのだそうだ。「もうだめだ」と思ってしまうと勉強の意欲が失せ、不登校になってしまう。

そして、3位は「選んだ大学が自分に合っていなかった」という理由。たとえば大規模すぎる、その逆で小規模すぎる、キャンパスの周囲に何もない、経済面やロケーションを重視して選択したが校風が合わないなど、入学前の期待とは異なったために1年目で大学を去る学生は数多い。

さて、いよいよSATに申し込む時期を迎えているニナ。親としては、そこで学びたいと思える大学を探してほしいというのが唯一の願いだが、果たして?

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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