こんな時どうする?
アメリカ生活お役立ちBook〈法律編〉

結婚・離婚

結婚・離婚に関する手続きは、州やカウンティによって異なります。ここで紹介する内容はあくまで一般的な例であり、状況やエリアによって例外があるので、詳細は必ず弁護士にご相談ください。

結婚に法的手続きはない
アメリカには戸籍謄本がなく、結婚するうえで法的に必要な手続きは存在しません。両者が「結婚した」と周囲に言うことで、結婚が成立するのが一般的です。結婚式を挙げる場合、牧師や神父、州の判事などの前で誓いを立てた後に、婚姻証明書(Marriage Certificate)を発行してもらえます。ただし、これは日本の法的な入籍とは異なり、アメリカでは役場のような場所への婚姻書提出は必須ではありません。

有責の問われない離婚
アメリカでは、一般的に非を問われない離婚(No-Fault Divorce)が認められています。離婚に関してどちらかに落ち度や非があっても、その責任は問われないということです。日本の場合、相手の浮気を理由に離婚する際に慰謝料を請求することがよくありますが、アメリカでは浮気によって慰謝料を請求するという概念がありません。また、夫の浮気を理由に離婚して、夫とこどものコンタクトを断ちたいと思っても、新しい彼女との間でこどもを育てる能力があると認められれば、その機会は夫にもフェアに与えられます。ただし、慰謝料は請求できなくても、妻は結婚・出産や子育てのため働くことができなかった状況が認められれば、結婚期間に応じて一定期間、扶養家族手当てを請求することができます。

離婚に関する2つの制度
アメリカでは、夫婦間における財産や離婚時の分与に関して、以下のように州によって大きく2つの制度が採用されています。

コミュニティ・プロパティ・ステート
婚姻中に築いた資産はどちらが稼いだかや名義人がどちらかに関係なく、夫婦それぞれが50%ずつ共同で所有し、離婚時には財産を平等に折半する。この制度は主に西海岸に集中している。

コモン・ロー・ステート
婚姻中に得た財産であったとしても、その名義人の所有となることが一般的。主に東海岸に多く見られる制度。

離婚が成立するまでの手続き
まずは、申請書をどこの裁判所に提出するかを決めます。一般的に結婚生活をした場所、財産のある場所やこどもを育てた場所などによって管轄地・権が決定されますが、管轄権の決定については州やカウンティの規定によって相違し、複雑な法的分析を必要とします。したがって、結婚生活中にいろいろな州・国・カウンティに移り住んでいてどこの裁判所に提出するかが分からない場合は、弁護士に確認しましょう。

申請書を提出する裁判所が決定したら、申請書をその裁判所に提出します。子育てプランや育児・教育費などの確定と財産分与の方法や額などが確定した段階で、離婚届を提出して成立となります。なお、相手側が先に離婚申請書を提出した場合も同じ手続きですが、相手側が正当な管轄地を選ばずに申請書を出す場合もあるため、管轄地・権を正すための申請書を出すこともあります。婚前契約書を交わしていて、その条件に従って離婚届けを出すこともあるでしょう。また、子育てプランや育児・教育費などの確定と財産分与の方法に双方で同意していれば、申請書を共同で提出することも可能です。

一般的には、成立までの期間は6カ月から1年ほどですが、州や裁判所規定によって条件が異なります。

離婚時に知っておくべきこと
離婚申請する地域がコミュニティ・プロパティ・ステートかコモン・ロー・ステートかによって財産分与などの方法が変わってくるので、このシステムを理解しておくことは重要です。また、アメリカ人の夫(妻)と永住権を持つ日本人の妻(夫)が離婚する際、夫婦間の財産に現金が少なく、投資金や年金などに集中している場合は、まず国際税法に詳しい会計士に相談することをおすすめします。離婚で財産分与をする際に、永住権の取得時期・期間などによっていろいろな条件や納税額などが変わってくるからです。

また、2014年には、日本がハーグ条約に加わりました。以前は、離婚訴訟中や離婚訴訟後に妻がアメリカの法廷命令違反でこどもを連れて日本に帰った場合、アメリカ側は妻に対して法的にこどもを返還させることができませんでした。しかし、ハーグ条約参加後は、妻とこどもがアメリカの法廷命令違反で日本に滞在していたら、夫は米国裁判所を通して妻を不服従罪で訴え、こどもを強制的に返還させることが可能になりました。

シャッツ法律事務所
井上奈緒子
206-389-1646
http://shatzlaw.com/jp/
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