実店舗の小売店大手ウォルマート・ストアズがオンライン通販のジェット・コムを買収し、オンライン通販大手のアマゾンが高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収するなど、小売業界では実店舗とeコマースの境界が消えつつある。今後は、両方の市場を誰が支配するかが注目される。
■実店舗の優位性低下?
ロイターによると、アマゾンはホールフーズ買収によって、実店舗市場でウォルマートに対抗する姿勢を打ち出し、特にウォルマートの主力である食料雑貨分野を狙っている。アマゾンにとって460店舗以上を展開するホールフーズは、大きな食品売り場を持つ4700店のウォルマートとの闘い方を学ぶ練習台にもなる。
ウォルマートは、国内スーパーマーケット市場の22%を抑え、2017年1月期の売上高4860億ドルの56%を食料雑貨が占める。また、米人口の90%はウォルマート店から10マイル以内に住んでいる。
アマゾンは、高価なことで知られるホールフーズ商品の値段を下げてウォルマートの客にも買えるようにすると見られている。対するウォルマートは、Moosejaw、Modcloth、Bonobosといったオンライン・ブランドの買収でアマゾン利用者のうちより所得の高い層を狙うと同時に、食料雑貨分野では価格競争に備えて値段を下げ、生鮮食品や肉類の品ぞろえを改善し、売り場の棚や照明を刷新している。
ウォルマートはまた、オンラインで注文した商品を車寄せで受け取れるサービスを現在の700店舗から年内に300店舗増やす予定で、10店舗では生鮮・冷凍食品の同日配達も試験導入している。ジェット・コムの創業者で現在はウォルマートのeコマース事業を統括するマーク・ロア氏によると、アマゾンの動きで戦略が変わることはなく「われわれは攻める側」だという。しかし、ウォルマートで食品仕入れを統括した経験もあるオークトン・アドバイザリー・グループのロジャー・デイビッドソン社長は「アマゾンのホールフーズ買収でウォルマートの実店舗に関する競合優位性は下がる」と見ている。
■秘策はホールフーズ365?
業界研究者の間では、客層が異なるためアマゾンがホールフーズを使ってウォルマートの客を奪うことは難しいとの見方もあるが、ユーロモニターのミシェル・グラント小売担当責任者は「アマゾンは『ホールフーズ365』でウォルマートの客を引き付けることができる」「ホールフーズ365はウォルマートにとって大きな問題になる可能性がある」という。
ホールフーズ365は、より若くバリュー(価値)を重視する消費者向けにプライベート・レーベル商品や従来のホールフーズ店より安い商品を提供しており、アマゾンはこれに資金や知恵を注いでより大規模な事業を構築することができる。
また、アマゾンの元幹部で実店舗戦略や食品宅配サービス「アマゾン・フレッシュ」の拡張に関わったブリテン・ラッド氏は「アマゾンはホールフーズで将来の食料雑貨店の構想をテストする」と見る。客がかごに入れた商品を自動スキャンしてレジの列をなくし、アマゾンの顧客データを基に商品を選び、1日に何度も価格を変える技術を使う可能性や、オンラインで購入した商品をホールフーズで受け取るサービスやホールフーズからの宅配、ファーマシーの追加、店内でアマゾンの電子機器を陳列する…といった可能性もあるという。
現在は供給チェーンのコンサルタントをしているラッド氏は「ホールフーズは値段を下げ、品ぞろえを変えて客層を広げ、クローガーやウォルマートは客がアマゾンに流れて打撃を受ける」と予想している。(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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