原油安で北米の産油量は縮小へ 〜 石油供給量、世界的に減る可能性も

 原油価格の低下を受けて、石油業界では人員削減、生産縮小、計画の中止や先送りが増えている。産油量の減少は米国とカナダでもっとも大きいと見られ、その結果、石油の世界供給量が減少する可能性がある。

 クリスチャン・サイエンス・モニター紙によると、世界の石油生産量(リースコンデンセートを含む)は、2005年第1四半期から2014年第3四半期にかけて日量400万バレル(bpd)増加したが、米国とカナダでの増産分を差し引くと51万3000bpdの減少となり、もし両国で新規の石油生産が大幅に減ると、世界生産量は横ばいか減少する可能性がある。

 石油の減産が米加でもっとも進むと考えられる理由は、両国における2005年以降の石油生産の伸びが、コストの高いカナダのタール・サンドや米国のタイト・オイル(シェールなどの岩盤層から採取される中・軽質原油)の掘削からきており、それらの資源のほとんどが、現在の原油相場では新しく掘り始めても採算が取れないことにある。

 採算の取れる価格が現行の相場に近い場合もあるが、石油各社が大幅に生産を減らしているのが現状で、米国のリグ(掘削装置)稼働数は1991年以降もっとも大きく落ち込み、しかもタイト・オイル生産の中心地で多く減っている。

 カナダの石油最大手でタール・サンド生産が主力のサンコア・エネルギー(Suncor Energy)は今年1月に、原油安を理由に人員削減、設備投資の縮小、新プロジェクトの先送りを発表。ほかの会社も同様の対策を実施している。

 原油安がこのまま続けば新事業の先送りがさらに増え、他国の生産も縮小し続ける可能性がある。また、世界経済が長期的な減速または景気後退にもし陥れば、石油の需要はさらに低下し、結果として原油安が長期化する恐れが出てくる。

 最終的に成長が加速する時には、需要の抑圧が強まった反動で急激に価格が上昇する可能性もあるが、それまでは生産拡大のための労働力や多くの機械は必要とされない。

 ここで重要なのは、金融機関や投資家がタイト・オイルやタール・サンド事業への投資に消極的になると、米加の石油開発業者が生産を再び拡大しようとする時に十分な資金を確保できなくなる恐れがある点だ。

 原油価格が短期間で金融機関や投資家が安心する程度に回復したとしても、米国のタイト・オイルとカナダのタール・サンドの生産の伸びが昨夏の水準に回復するには数年かかる可能性がある。

 石油のある場所は豊富だから世界供給量が減ることはないという楽観論もあるが、原油安が1日続くごとに、世界の原油生産が近い将来に横ばいまたは減少するという危険度は高まっている。

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