Traditional 401(k)・IRAのRequired Minimum Distributionsにご用心

401(k)やIRAでリタイア後の生活資金を準備されている方も多いと思います。

Traditional 401(k)やTraditional IRAなどの課税繰延口座は、拠出時に所得控除が受けられ(所得税非課税)、運用益非課税、そして引き出し時に所得税が課税される口座です。課税が何年も繰り延べられ、その間の運用益にも課税されませんので、税務上効率良く、資産形成を図れる制度です。特に口座拠出時の所得税率に対して引き出し時の所得税率が低い場合には、相対的に高い税率から低い税率への繰り延べとなり、極めて効果的です。

ただし、無制限に課税繰り延べができるわけではありません。金額としては毎年の拠出額上限が決まっています(2024年の適用数値)。期間という意味では、73歳(1960年以降生まれは75歳)から毎年一定額以上を引き出す(所得に算入)することが求められます。これがRequired Minimum Distributions(RMD)です。

RMDの適用対象は、401(k)、IRAのほか、403(b)、457(b)、SEP、SARSEPなどの課税繰延口座を含みます。Roth 401(k)、Roth IRAは、適用対象外です(相続された場合を除く)。

IRSの意図としては、Traditional 401(k)/IRAをはじめとする課税繰延口座にある資産はまだ所得税が課されていませんから、持ち主の生涯にわたって徐々に課税対象に算入するということです。

そして、RMD初年(トリガー・イヤー)を除いた毎年の引き出し期限は年末(12月31日)となっていますので、ご注意ください。もし引き出し額が毎年のRMDに満たないと、不足額に対して25%のペナルティがあります。

Required Minimum Distributions(RMD)の期限

73歳になる年をトリガー・イヤーと言います。基本的に、毎年12月末までにRMDの金額(計算方法は後述)を口座から引き出さなければいけませんが、最初のRMDだけは、トリガー・イヤーの翌年の4月1日が期限になります。

例えば、哲也さんが今年73歳になったとします。哲也さんの今年分のRMDは、来年の4月1日までに引き出さなければなりません。今年(トリガー・イヤー)だけは、年末までにRMDを引き出さなくても、ペナルティはありません。ただし、来年は今年のRMDを4月1日までに引き出し、さらに来年のRMDを年末までに引き出すことになります。その両方が、来年の所得に算入されます。場合によっては、累進所得税率が上がったり(Tax Bracketが上がる)、ソーシャル・セキュリティにかかる税金(ソーシャル・セキュリティの税制)が増えたりすることがあるでしょう。

なお、73歳以降も雇用されていて、雇用主が提供する401(k)に加入している場合は、当該401(k)のトリガー・イヤーはその会社から退職する年になります。それ以外に保有しているIRAや過去の勤務先の401(k)のトリガー・イヤーは、73歳のままです。

Required Minimum Distributions(RMD)の計算

毎年のRMDは、前年末の課税繰延口座残高をIRSが定める「引き出し期間」(Distribution Period)で割って求められます。この数値は、年齢別に下表(Uniform Lifetime Table*)のように定められています。

*年齢差が10歳超の夫婦の場合は、別のJoint Life and Last Survivor Expectancy Tableを用います。

例えば、今年73歳になった哲也さんの前年末の401(k)残高が50万ドルだったとしましょう。哲也さんのRMDは、50万ドル÷26.5(73歳の引き出し期間)=18,868ドルとなり、この金額を来年(トリガー・イヤーの翌年)4月1日までに引き出す必要があります。来年のRMDは、今年末の401(k)残高と25.5(74歳の引き出し期間)を用いて算出します。

なお、RMDは課税繰延口座ごとに金額を計算します。IRAと403(b)の場合、複数の口座のRMDを合算して一つの口座から引き出すことが可能です。401(k)などそのほかの課税繰延口座には合算は使えず、複数の口座がある場合、それぞれからRMDを引き出す必要があります。

もし引き出し額が毎年のRMDに満たないと、不足額に対して25%のペナルティ(Excise Tax)が課されます。ただし、2年以内に是正措置(本来引き出すべきであったRMDを引き出す)をとった場合は、ペナルティが10%に軽減される可能性があります。

RMDを踏まえたフィナンシャル・プランニング

まとまった金額の課税繰延口座残高がある場合には、ソーシャル・セキュリティの受給開始やRMDの時期を踏まえて、いつ課税繰延口座から引き出すか、またはRoth Conversion(所得税を払ってRoth口座に移管)するか、前もって計画しておくのがよいでしょう。

課税繰延口座からの引き出し、Roth Conversionのいずれも、その年の課税所得を高めることになりますので、他の所得も勘案しつつ、各年の累進所得税率(Tax Bracket)を高めないように配慮する必要があります。

リタイアからソーシャル・セキュリティの受給開始まで間があく場合、その間の課税対象となる所得が低くなりますので、税金を抑えながら、課税繰延口座からの引き出しやRoth Conversionを行う好機となります。RMDの対象になる課税繰延口座を少なくしておけば、ソーシャル・セキュリティ受給時の税金を抑えることにもつながります。

ただし、Roth Conversionについては、実施した年(の1月1日)から5年以内にRoth口座から引き出すと、59.5歳以降の場合、運用益部分が所得税の課税対象になることに留意する必要があります。したがって、5年以内に使う予定のない資産をRoth Conversionに回すのが望ましいでしょう。

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後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

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