美しく生きる

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

菊の花

ノートルダム清心学園元理事長である渡辺和子さんの言葉に、「どんな場所でも、美しく生きる、それが人生」という言葉がある。この言葉の中にすべてが言い尽くされている。 

今から50年前の日本では生まれた土地でそのまま一生を送るのが普通だったが、今はまったく違う。たった50年でこんなにも変わった。若者はどんどん海外に出て行き、気に入った場所、あるいは縁のあった場所で暮らし始める。実に勇気のある行動だ。自分の人生を自分で選んだ世界の中で作るなんて羨ましい。この国で生計を立てられるのだろうかという一抹の不安は、誰にもあったはずだ。しかし、それを上回る「なんとかなる」という根拠のない自信があったからこそ、人生で一番重要なことをカンで決めてしまう。簡単に決めるのは、そこに無意識の選択があったからこそ。これが若さというものだろう。若者は計算ずくではなく、動物的なカンで動く。歳をとると先に計算してしまい、動機が不純になり良い結果に繋がらないことが多い。 

アメリカやヨーロッパなど先進国なら、移住は比較的容易だろう。それでも日本と比較すれば気候も人種も文化も生活習慣も違い、そこを自分の第二の故郷とするまでには試行錯誤の10年がかかる。異国に住むのは当然ながら容易ではない。しかしアメリカの良い点は、一般的に人々はおおらかで、税金を払い、家のモーゲージを払い、独立して自分の生計を立て、社会人としての規律を守って生活していけば、社会に受け入れられやすいということだ。理由はやはり、国土が大きく移民を受け入れるだけの余裕があるからだろう。とにかく労働力がほしい。だから私を含め移民が生計を立てやすい。ところがこのGood system を悪用する人もいるようで、今はその移民を減らし、不法移民を追放しようと政府の方針が変わり始めた。 

イギリスへの移住は、留学や仕事で来てそのまま留まる、イギリス人と結婚するなどの経緯を経てきた人が大半だろう。ヨーロッパ最大の権力を持った長い歴史があるから、人々の心の中にもそれを誇る気持ちがある。その国民の潜在意識をどう受け入れ、人々の中に溶け込めるか。雨が多く寒い独特の気候も慣れるのに時間がかかるだろう。 

フランスは憧れる芸術の国だが、住むとなれば厳しい現実生活に直面する。毎日カッコよくカフェでお茶というわけにはいかない。フランス語をマスターして収入を得る、この最低限の能力を身につけるのさえ容易ではない。歴史のある地域の町並みは美しくロマンティックで素晴らしいが、それと自分の生計を立てるのは別問題だ。フランスでは夫婦の生活費は完全な夫婦割り勘が36%と聞く。厳しい現実だ。 

先進国ではない国に青年海外協力隊として行く、観光客として行くという過程を経て、現地人と結婚しそこに留まる日本人も増えてきた。生活の大変化だ。それでも私たちは恋をし、どんな場所でもこの人について行く、一緒に幸せになりたいと熱い思いを持つ。もう止めることはできない。そして結婚して子供ができる。女から母の思考になり、巣を作り子供を育てるメスの動物本能に支配される。どんな生活でも、この原始的で純粋な動物本能に従って生きる選択をした時、ある種特別な甘い幸せがある。一夫多妻のマサイ族の男性と恋をし、第二婦人となった日本人女性は純粋で強い人だろう。夫も属するマサイ族が現代社会の中でどう共存できるか考え、道を探る行動をしている。 

世界の大都会で、男性と肩を並べてキャリアを積み活躍する女性、後進国で家族を愛し原始的な生活をする女性。今はどちらを選択するかは個人の自由で、優劣はないという考え方が一般的になりつつあるという。娘と大喧嘩になったことがある。仕事が生きがいだった私の生涯、高い教育を受け高収入を得ながらも結婚して主婦の生活を選んだ娘。娘は「今はどちらの道を選ぶかは本人の選択。キャリアを積み自己実現もよし、家族のために食事を作り子どもと丁寧に向き合うもよし。本人の自由選択。時代は進んできたのよ、お母さん」と諭された。 

どんな場所で、どんな人生を生きるか、そこで最善を尽くし自分らしく美しく生きていれば、きっと自分のオアシスに辿り着ける。それが人生だという渡辺和子さんの言葉がすべてを言い当てている。他人の動向に翻弄されない。自分を本当に幸せにしてくれるものは何か、胸に手を当てて聞いてみる。 

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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