米IT企業は、何年も前からインドなどの請負業者にアウトソース(業務委託)して経費を抑えてきたが、最近は外注先が国内という「オンショア・アウトソーシング」の例が増えている。
■時差や言葉の問題もなし
ニューヨーク・タイムズによると、シリコンバレーのソフトウェア・アウトソーシング会社ネクシエント(Nexient)は、外国のプログラマーの雇用をやめた米企業を相手にする特殊な業者として繁盛している。本社はカリフォルニア州ニューアークで、中西部に3カ所の人材派遣拠点を持っている。
ベイエリアやニューヨークといったハイテク拠点から離れた場所に人材派遣の拠点を置くのは、東西海岸より生活費がはるかに安い中西部に住みながらIT業界で働きたいという人材を活用するためだ。ネクシエントの社員数は2年前の250人から400人に増えており、今後1年でさらに数百人を増やす計画だという。
ネクシエントを利用する決済・集金サービスのビル・コムの場合、かつて外国業者に業務を委託したことがあるが、時差や文化、言葉などの問題でコスト効果がなくなってしまうことが多く、国内の業者を使うことでこうした問題が解消されたという。レネ・ラサートCEOは「アウトソースで満足したのはこれが初めて」と話している。
国内請負業者の多くは、ルーラル・ソーシング(Rural Sourcing)、カタライト(Catalyte)、イーグル・クリーク・ソフトウェア・サービシズ(Eagle Creek Software Services)、オンショア・アウトソーシング(Onshore Outsourcing)といったあまり名の知れない非上場企業だが、外国業者へのアウトソーシングを続けるIBMも、向こう4年間に米国の労働者を2万5000人増やす計画を発表している。
■ニーズの変化
近年は南アジアなどでも人件費が上昇し、オフショア・アウトソース(外国への業務委託)がそれほど安上がりではなくなってきた。さらに、1990年代に始まった業務デジタル化の最初の波は、主に給与計算や財務報告といったバックオフィス業務の自動化が中心で、業務で必要なソフトウェアは技術者が管理する巨大なプログラムの集まりだったためインドなどの低賃金国に外注する利点があったが、近年はあらゆる業種の企業が携帯電話用アプリケーションや魅力的なウェブサイトを必要としている。
発注者と緊密に連携しながらこうしたソフトを作成するには、小規模で小回りの利く集団が最適で、時差のない場所、少なくとも同じ大陸にソフト開発者を持つことが重要と考える企業が増えている。この結果、外国の請負サービスの伸びは近年の半分近くまで減速しており、過去5年間の年間成長率は平均15%だったが、ハイテク調査のIDCは「2016〜21年は8%になる」と予想している。
これまでのオフショアリングは、プロジェクト・マネジャーだけが米国にいて実際の作業は外国というやり方が多かったが、インドの請負大手インフォシスのビシャル・シッカCEOは「仕事が非常に地元密着型になり、チーム全体がその場にいる必要があることも多く、もうインドにスタッフを抱えるだけでは不十分」と話す。同社は17年5月、インディアナとノースカロライナの拠点を皮切りに今後2年間で米国で1万人を雇用する計画を発表した。
国内アウトソーシングの増加には、トランプ大統領が企業に国内雇用の拡大を呼びかけていることも影響しているようで、国内の請負業者はどこも「大統領選の後に企業からの問い合わせが増えた」と話す。ハイテク調査ガートナーのアナリストは「国内のアウトソースは今後も残り、急速に拡大する」と見ている。(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします
最近のニュース速報
-
ターゲットとショッピファイが提携 〜 ターゲットのオンラインいちばに中小の小売業者らが出店可能に
-
人工知能銘柄が今後10年の株式市場を動かす 〜 シスコの元CEOのベンチャー・キャピタリストが予想
-
2024年7月8日 アメリカ発ニュース, ハイテク情報, 米国ビジネス
スマート包帯の研究&開発が前進 〜 傷口の状態を遠隔追跡、包帯から投薬や電気刺激を可能に
-
飲食店で印刷メニューが復活~QRコード不評で
-
2024年7月1日 アメリカ発ニュース, 世界のニュース, 環境ビジネス, 米国ビジネス
ウェザーXM、ウェブ3とIoTで気象データに革新 〜 動く気象観測所群の分散型連携網を構築
-
米消費者のガソリン車好き続く~KPMGの意識調査
-
2024年6月27日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
対中EV貿易戦争、様々な副作用も
-
傷が早く治る、次世代ばんそうこう~医師との通信も可能に
-
生体認証決済が米国で拡大しつつある 〜 マスターカードやJPモルガンも導入へ
-
米国特許商標庁、出願者らの個人住所流出が再発 〜「不注意」が原因、影響を受けた人たちに通知