Pied-à-Terre Tax(別荘税)その後 ― 施行1か月で見えてきたこと

先月に引き続き、今回もPied-à-Terre Tax(別荘税)についてお話ししたいと思います。

前回は、この税金がどのような制度なのか、その概要をご紹介しました。今回は、7月1日の施行から約1か月が経ち、実際の現場で見えてきた課題や混乱についてお伝えしたいと思います。

この1か月、不動産業界ではこの話題が出ない日はないと言っても過言ではありません。

新しい税制ということもあり、「これはどう解釈すればいいの?」という疑問点が次々と出てきています。投資家はもちろん、不動産エージェントや弁護士の間でも判断に迷うケースが少なくありません。私のような不動産エージェントが法律の解釈を断言できる立場ではありませんが、非常に関心の高いテーマなので、今回も分かる範囲でご紹介したいと思います。

まず、現在も多くの方が混乱しているのが、「どの価格を基準に課税されるのか」という点です。

戸建て住宅は評価額500万ドル以上、コンドミニアムやコープは100万ドル以上が課税対象となります。マンハッタンでは中古の1ベッドルームでも100万ドルを超える物件は珍しくないため、「自分も対象になるのでは?」と心配されるオーナーの方も多いでしょう。

ただし、ここで重要なのは、この基準となるのはDOF Market Value(ニューヨーク市財務局による評価額)であるということです。(ちなみに固定資産税もこの評価額を基に計算されています。)

つまり、市場価格(Market Price)が500万ドルの物件であっても、DOF Market Valueは100万ドル以下というケースも珍しくありません。一般的にDOFの評価額は市場価格よりかなり低く設定されているため、実際には課税対象から外れるオーナーや投資家も多くいます。

とはいえ、マンハッタンにはDOF評価額が基準を超える物件も数多く存在するため、市場への影響は避けられません。特にコンドミニアムやコープの税率は4〜6.5%と、戸建て住宅の0.8〜1.3%に比べて大幅に高く、市内ではコンドやコープが圧倒的に多いことを考えると、その影響は決して小さくありません。

前回もお伝えしましたが、この税金は2段階で導入されます。第2段階(フェーズ2)が始まる2028年7月以降は、DOF評価額ではなく、実際の市場価格(Market Price)が課税基準となります。そのため、現在は対象外となっている物件でも、市場価格が500万ドル以上であれば、2年後には課税対象となる可能性があります。

こうしたことを考えると、現在500万ドル以上の物件を別荘として購入しようとしているバイヤーの中には、「どうせ2年後には税金がかかるなら…」と購入をためらう方も出てくるでしょう。また、その将来の税負担を見越して価格交渉が厳しくなるケースも考えられます。ニューヨーク市の高級住宅マーケットにとっては、決して明るい材料とは言えません。

Pied-à-Terre Taxは、その名のとおり「主たる住居ではない住宅」に課される税金です。そのため、賃貸に出していたり、一定の条件のもとで家族が居住している場合は、基本的には課税対象外となります。

しかし、実際の売買では判断が難しいケースも数多くあります。例えば、「現在は賃貸中だが、売却時には空室で引き渡す予定」の物件や、「購入後は賃貸する予定だったものの、しばらく入居者が決まらない場合」、あるいは「売却のために退去してもらったが、1年以上買い手が見つからない場合」などです。このようなケースでは、現時点でも弁護士の間で解釈が分かれることがあります。

また、家族が住んでいる場合でも、法的な所有者の構成によっては、「別荘」と判断される可能性があるケースもあるようで、一律に判断できないグレーゾーンが残されています。

特に高額物件を扱う不動産業界では、この税制が市場の流動性を低下させるのではないかという懸念の声が多く聞かれます。しかし、すでに施行された法律であるため、すぐに見直される可能性は低いとみられています。私がお話を伺った弁護士によれば、第1・第2フェーズを合わせた5年間は事実上見直しが難しく、仮に制度が変更・廃止されるとしても、その後に法改正の議論が行われることになるだろう、とのことでした。

まだ施行されたばかりの制度なので、今後も実務上の解釈や運用について新しい情報が出てくると思われます。動きがありましたら、このブログでも引き続きお伝えしていきたいと思います。

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柏原知子 (Tomoko Kashihara)

柏原知子 (Tomoko Kashihara)

ライタープロフィール

大阪女子大学(現:大阪府立大学)卒業後、CBRE Japanに入社。東京で外資系企業のオフィス移転を担当する商業不動産ブローカーとして働いた後、ニューヨーク勤務を機に住宅ブローカーに転向。1999年より住友不動産販売NYで活躍した後、2021年に米系大手Compassに移籍。趣味は旅行、クルーズ、トレッキングとイタリア語。

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