車両電動化が加速する中、国内各州による電気自動車(EV)やEV用電池製造工場の誘致合戦が激しくなっている。その中で頭一つ抜け出ているのがテネシー州だ。
■理想的な条件を提供
ウォールストリート・ジャーナルによると、フォードと韓国の電池製造大手SKイノベーションは最近、テネシー州西部にEVと電池を製造するための大規模な複合施設を開発する計画を発表した。その前にはゼネラル・モーターズ(GM)と独フォルクスワーゲン(VW)も、EV生産を拡大するためそれぞれテネシー工場への設備投資を発表している。
フォードの場合、2021年初頭から工場建設地の選定を開始し、12州以上に散らばる85の物件を調べた。条件としては、1)既存の施設を整理、改装することなく迅速に入居できる大規模な空き物件であること、2)再生可能資源から安くて頼れるエネルギーが得られること、3)鉄道や州間道路が使いやすいこと、4)フォードの他の組立工場に比較的近いこと…などを挙げていた。
チームは短期間で候補地リストを絞り込み、最終的にテネシー州ヘイウッド郡の人口まばらな田舎にある平らで安定した土壌の約6平方マイルの土地を選択した。この物件は、わずかな地形の変化も許されない電池工場に理想的な場所であるほか、地熱発電に使えるメンフィス砂帯水層の上にあった。
テネシー州が誘致合戦で先頭に立っているのは、州の指導者や地域に電力を提供するテネシー川流域開発公社(TVA)による長年の努力が大きな理由になっている。州は広範な労働者訓練プログラム、働く権利を守る法律、総額5億ドルに上るインセンティブ(優遇措置)などを企業に売り込んだ一方、TVAは、安くて比較的信頼性の高いエネルギーと、1億ドルを超える電力設備の更新その他のインセンティブを提供した。
電池製造工場はフォードの典型的な組立工場の5倍に達する膨大な量の電力を使うため、エネルギーコストは考慮すべき大きな問題だったが、TVAは国内でも低水準の料金で産業用電力を提供している。
■8年前から体制づくり
テネシーでは、1983年に日産がスマーナに最初の米国工場を開設したのを機に、デンソー、GM、VWの大規模な製造事業が始まり、多くのサプライヤーも集まった。しかし拡大する自動車産業をさらに20年、40年先まで維持するため、約8年前から当時の知事と有力州議員らが自動車メーカーに対し、州内のEV生産を大幅に拡大するよう働きかけを始めた。
現職のビル・リー知事(共和)は今回、経済担当チームに候補地だった資産を評価させ、大企業を引きつけるために上水排水インフラのアップグレードなどを行い、年初からは電力供給元のTVAもフォードの誘致に加わった。
この地域で必要な労働力を確保できるのか、州が強力な労働者訓練プログラムを提供できるのか確認したかったフォードに対し、州は敷地内に労働力開発施設を設置することも約束した。
オハイオ州マイアミ大学の地理学者で自動車業界に関する幅広い著書があるジェイムズ・ルーベンスタイン氏は「中南部を魅力的にする重要なミクロ要因は水へのアクセスと低コストの電力で、マクロ要因は州間道路が多く交わる場所に位置すること」と指摘している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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