自動運転車(autonomous vehicle=AV)の技術開発が加速するなか、AVの保険のあり方を再考する必要性も再浮上している。ベンチャービート誌によると、早ければ10年以内にAVが普及するという予想もある一方で、AV保険をめぐる課題の解消はそれほど進んでいない。
▽AVの試験運用、各地で展開
自動車メーカーや技術会社らによるAV技術の開発とAVの試験運用は活発化している。フォード(Ford)とアルゴAI(Argo AI)はリフト(Lyft)との提携のもと、AVを使った配車サービスをテキサス州オースティンとフロリダ州マイアミで開始する計画を今夏に打ち出した。
現代自動車とアプティブ(Aptiv)の合弁会社モーショナル(Motional)は、これまでラスベガスの中心部で試験運用を行ってきたが、まもなくロサンゼルスでも試験を開始する。さらに、インテル(intel)傘下のモービルアイ(Mobileye)は、ニューヨーク市内で自動運転技術の試験運用を開始した。
専門家のなかには、早ければ10年以内にAVが広く利用されるようになるという予想する向きもある。
その一方で、車の所有者が保険を購入する必要があるのかどうかといった抜本的な点はこれから問われることになる。AVの設計上の問題で事故が起きたならば、責任は車や技術のメーカーに課される可能性がある。
▽大量データをもとに保険引き受けリスクを算出するクープ
そういった課題を見越して新たな事業モデルを打ち出している新興企業もある。たとえば、ピッツバーグ拠点のクープ・テクノロジーズ(Koop Technologies)は、AVやロボットをはじめ、「機械中心」のリスクを対象とした保険プラットフォームを構築中だ。
クープは現在、AVとロボットの開発会社たちからデータを集めている。保険引き受けリスクを算出するのがその目的だ。それによって、技術開発会社や保険会社らが効果的にリスクを移転できるようになる可能性がある。
「当社には、車両のデータを大規模に収集する製品がある。従来のテレマティクスの取り組みと異なり、付加的なハードウェアを必要としない」「大規模でのデータ収集によって、機械学習モデルで流動的にリスクのコストを算出できる」と、クープの共同設立者兼CEOのセルゲイ・リトヴィネンコ氏は説明している。
同社は大手保険会社とすでに提携している。最近では、ユービクイティー・ベンチャーズ(Ubiquity Ventures)が率いた資金調達で250万ドルを集めた。
▽自動運転機能稼働に応じて割り引くアヴィニュー
一方、カリフォルニア州ウェストレイク・ヴィレッジ拠点のアヴィニュー(Avinew)は、自動的な安全機能を搭載した車の所有者に対する保険を、異なる取り組みによって提供している。
同社は、概念実証の試験運用を2社の保険会社とすでに完了し、500万ドルを資金調達したのち、テスラ(Tesla)で事業開発責任者を務めたジェレミー・スナイダー氏を雇い入れた。
「最近の車に搭載されている高度の安全機能は、私たちの運転方法を変えつつある。自動車保険市場の変化は必然であり、それは新たな商機でもある」と、アヴィニュー設立者のダン・ピート氏は話した。
同社の保険制度は、モバイル・アプリケーションを使ってテレマティクス・データを収集し、自動または準自動の機能が作動しているかどうかを検出する。テスラのオートパイロット(Autopilot)やGMのスーパー・クルーズ(Super Cruise)といった機能がその対象だ。アヴィニューの保険では、それらのデータにもとづいて保険料の割り引きを適用する。
▽トローヴとミュンヘン再保険、ウェイモ利用者向けの包括的保険
かたや、カリフォルニア州ダンヴィル拠点のトローヴ(Trov)は、アルファベット傘下のウェイモ(Waymo)の顧客に対する保険を提供している。保険を引き受けているのはミュンヘン再保険(Munich Re)の関連会社で、ウェイモの利用者が保険料をトローヴに支払うわけではない。同保険では、物損と医療費が補償される。
「当社の保険専門家らは、提携先のミュンヘン再保険と協力し、もっとも包括的な保険を開発した。物の紛失から医療サービスまで、ウェイモの自動運転技術を搭載した車両のすべての乗客に対し、毎回の利用ごとおよび走行1マイルごとに提供できる」と、トローヴのスコット・ウォルチェックCEOはブログの投稿で説明している。
▽プライバシー侵害懸念より保険料低下を重視
昨今の車には、無線交信機能が標準搭載されている。それによって、車両に関するさまざまのデータや情報を得ることができる。保険大手ネイションワイド(Nationwide)の調査では、車両監視を遠隔から可能にするテレマティクスに対してプライバシー侵害懸念を感じる人は60%以上に上った。テレマティクスを保険向けに活用することに抵抗があることを暗示する数字といえる。
しかし、車両の遠隔監視市場は成長が期待される。アドロイト・マーケット・リサーチ(Adroit Market Research)では、2025年までの年平均成長率を24.8%と予想している。
JDパワー(J.D. Power)が2018年に行った調査では、保険会社が準自動運転機能に対して保険料の割り引きを提供するのであれば、保険会社を切り替えるつもりだと答えた人が40%に上った。また、保険会社の70%近くは、高度の安全機能を搭載した車に割り引きを適用する、と予想していた。テレマティクスによって得られるデータの内容次第で保険料が安くなるなら、プライバシー侵害より保険費用低下のほうが好ましいという消費者心理を示すものだ。
▽保険料の割り引きを提供する大手ら
既存の大手保険会社らも同市場の変化を見越して動いている。ステート・ファーム(State Farm)とフォードは、衝突回避や走行速度維持機能(クルーズ・コントロール)、自動緊急ブレーキ、死角検出、車線離脱警告といった最近の準自動安全機能が自動車保険の請求にどう影響するかを調べるために、1年間にわたる試験運用を完了した。
ステート・ファームはその結果を受けて、2021年上半期に保険料率を改定した。最終的には、2010年型以降のフォードとリンカーン、マーキュリー車にその保険料率が適用される見通しだ。
また、電気自動車を製造するリヴィアン(Rivian)は、ネイションワイドの割り引き料金の保険を提供する計画だ。
そのほか、英国拠点の保険大手ディレクト・ライン(Direct Line)は、テスラ車の所有者に5%の割り引きを数年前から提供している。オハイオ州コロンバス拠点の保険会社ルート(Root)も、テスラ車の所有者に割り引きを提供している。
▽自動化技術による事故削減が割り引きを可能に
そういった割り引きが提供される背景には、自動運転または準自動運転技術によって事故が大幅に減るという見込みがある。
スイス再保険(Swiss Re)とデジタル地図技術大手ヒア(Here)は、準自動運転システムによって自動車事故が最大25%減り、自動車保険の保険料(加入者が払う保険掛け金)にして200億ドルの削減につながると見積もっている。
また、KPMGの報告書では、自動安全技術によって個人自動車保険市場が2025年内に現行規模の40%に縮小するという予想が示された。米国の個人向け自動車保険市場は現在、約2440億ドルだ。
▽課題と法整備
これから解決しなければならない課題はもちろんある。多くの保険会社は、自動車会社と技術会社らが触れ込んでいる安全性向上を裏づける十分なデータが現時点ではまだそろっていないと考えている。
また、自動運転技術が高価な部品に依存することから、修理や交換が難しい可能性も指摘される。アメリカ自動車協会(AAA)では、車載される各種の検知器の数や種類が多く、これからも増えることから、修理費用が3000ドル上昇すると見積もっている。
さらに、保険会社らが向かう方法性は法律によって変わってくる可能性がある。英国では自動&電気自動車法が2018年に可決され、AVの保険義務づけを規定した。米国でも連邦水準で類似法案が審議されているが、現在は進展がみられない状況だ。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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