人工知能が経済におよぼす悲惨な影響の筋書きを演習 〜 専門家らがワシントンDCに集まって考察

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、人工知能の発達によって悲惨な影響が社会におよぶ状態を防止するために、有効な方策を話し合う会議が6月中旬にワシントンDCで開かれ、専門家たちが複数の筋書きに沿って近未来を予想し、対策について考察した。

▽2030年の米国社会を予想

同会議は、非営利団体のウィンドフォール・トラスト(Windfall Trust)が企画し、ピーターソン・インスティテュート・フォー・インターナショナル・エコノミクス(Peterson Institute for International Economics)で開催された。同会議には経済や技術、公共政策の専門家らが集まり、2030年の米国社会がどのようになるかを考察した。人工知能がもたらす最大のリスク、すなわち雇用や経済、政治的な安定性におよぼす影響にどのように対応すべきかを話し合うことが目的だった。

ウィンドフォール・トラストは、人工知能による経済破壊への政策的な対応を考える団体だ。同団体はこれまでも、さまざまの筋書きを想定した演習を世界各地の都市で開催しており、予防的な戦略を刺激しようとしている。

米国では政治的な二極分化が顕著なため、野心的な政策を成立させることはかなりむずしいとみられる。しかし、だからといって無反応でいれば、その影響はきわめて甚大になる可能性がある。そのため、「いくつかの筋書きで賢明な方策を見きわめ始める」ことが重要だ、とジョージ・ホワイトサイズ下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)は話した。同氏は、同会議の昼食時間に行われた質疑応答に立ち寄った。

▽高まる公衆の不安

今回の会議では、サイバー攻撃や生物兵器といった安全性のリスクではなく、経済的な影響に照準することが選択された。「経済と雇用、子どもたちの将来の雇用機会に関する人々の不安感が高まるにつれて、それらの議題のほうが近未来の政治に影響する可能性が高い」と、ウィンドフォール・トラストのエイドリアン・ブラウン代表は考えている。

人工知能が人類にどのような影響をおよぼし得るかについて、人工知能開発大手らの経営責任者すらも予想できずにいることは、多くの人たちにとって不安要因と言える。オープンAIのサム・アルトマンCEOとアンスローピックのダリオ・アモデイCEOは、人工知能によって事務職が終末を迎える可能性について警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、新規株式公開をひかえた最近になってその見方を軟化させた。

とはいえ、公衆の不安は否定できない。ピュー・リサーチ・センターが2026年3月に米国で実施した調査では、社会全体として人工知能による好ましい影響が向こう20年間にあると考える回答者の割り合いは17%に留まった。

▽「紙の上での繁栄」という筋書き

ワシントンDCの会議で参加者らが取り組んだ筋書きは、「紙の上での繁栄(Paper Prosperity)」と名づけられ、一定の指標では経済が大きく躍進しているように見える状況を提示した。その筋書きでは、人工知能がもたらす効率化や生産性向上によって国内総生産(GDP)が2倍近くに伸び、S&P500株価指数も大幅に値上がりする。

しかし、その水面下では社会経済の危機が起こりつつある。失業率はわずかな上昇ながら、不完全雇用率が8%から14%に拡大する。すなわち、数百万人という人が非常勤や単発職(需要発生時だけの仕事機会)を強いられ、自身の学歴や職歴よりはるかに低水準の仕事にしか就けないという状況が拡大するということだ。

「不完全雇用や単発職、不安定性は米国の労働者階級で長らく一般的だったが、それが中流階級の上層部分にもいよいよ到達しつつある」、とその筋書きでは想定された。

▽従来の社会契約が成立しなくなる

参加者らはテーブルごとのグループに分かれて、それらの数値が実際にどのような世界になるかを議論した。その結果、いくつかの点について共通認識が確認された。おもなものは、政治的な不安が高まり、世代間格差が広がり、若い世代の悲観的な姿勢を受けて出生率が下がるという見方だ。「学校に行き、勤勉に働けば、良い暮らしができる」という社会契約は揺るがされていく。

溶接工や配管工、看護師、そのほか一部の職種では一時的に賃金が上がるが、事務職で失職した人たちが職業訓練に流入して(この部分はすでに起こっている)、労働力の供給が増える結果、いずれ賃金は下がる。

良い点としては、医療と教育の費用が将来には下がる可能性が挙げられる。人工知能が医学の進歩を効率的に達成する結果として、国民が全体として健康になり、寿命が延びるかもしれない。また、不完全雇用の労働者は、創造的な活動に費せる自由時間が増えるかもしれない。

▽職能転換再訓練と生活保障制度の必要性

その筋書きではどのような政策を導入すべきか。労働者が新しい職種の環境に適応するための再研修、すなわち技能転換再訓練(職能転換再訓練、リスキリング)はいく度となく話題にされた。しかし、米国は、政府が主導する再研修制度にかけては、歴史的にすぐれた実績を持っていない。また、人工知能によってどのような作業や職種が新たにつくられるかも、いまのところ不明だ。

そこから派生して議論されたのは、人工知能が生み出す富を再分配するための構造だ。基礎所得保障制度(一律給付制度、最低所得保障、ベイシック・インカム)、すなわち最低限の所得保障や人工知能会社とその株主への課税、さらにはバーニー・サンダース上院議員(無所属、バーモント州選出)が提案したような人工知能会社の過半数株式を政府所有にするといった方策が話し合われた。

ほかの提案としては、さまざまの社会的安全網(生活保障制度、セイフティー・ネット)の方策が挙げられ、国民皆健康保険制度や失業者向けの補助金、高品質の育児および介護サービスが含まれた。

▽政治の二極対立がもたらす政策遅延が最大の課題

1日だけ開かれた同会議を通じて明確になったのは、政治の二極対立によって政府が機能不全に陥り有効な政策を打ち出せないことが、同問題において最大の課題の一つになるという見方だった。政局にばかり走る政治家に対して、国民の信頼も失墜する。

「議会は動きが遅いうえ、技術恐怖症だ」と、ホワイトサイズ下院議員は指摘する。同氏は、航空宇宙局(NASA)の首席補佐官を務めた経歴があり、ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)の初代CEOだった。

米国は他国の動きから学ぶこともできる、とウィンドフォール・トラストのブラウン氏は指摘する。英国は先週、同分野の公共政策を研究する機関として人工知能経済研究所(AI Economics Institute)を発足させた。

「他国の政府が同問題を真剣に見つめるために行動を起こしているのを見ると勇気づけられる」とブラウン氏は話した。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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