がん治療に大規模データを活用 〜米腫瘍学会の「キャンサーリンク」
- 2013年4月5日
- ハイテク情報
非営利団体の米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology=ASCO)は、数十万人のがん患者のデータを集めて、それを将来の治療に役立てる壮大なプロジェクト「キャンサーリンク(CancerLinQ)」を発表した。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、同プロジェクトによって、医師は巨大なデータベースをグーグル検索のように手軽に利用して、自身が受け持つがん患者に類似した症例を見つけ、治療方法の助言を得ることができるようになる。
ASCOのアレン・リッチャー最高経営責任者(CEO)によると、米国では年間160万人ががんと診断され、そのうちの95%が紙の診断書に記録されてファイル・ケースに保管されるか、外部と接続しない電子システムに保存された状態だ。
同氏は、それらの大規模データ(Big Data)がオンラインで統合されれば、がん治療にとって多大な情報資産になると強調する。それがキャンサーリンク発足の動機でもある。
大容量の医療データを全米の医療機関から収集することは非常に難しい。ASCOによると、最大の課題の一つは、異なる電子システムからがんの診断および治療に関する情報を集めて統一システムに統合するソフトウェアとシステムの開発だ。
ASCOではそれを可能にする試作システムをすでに構築し、30近いがん患者集団から10万件以上の乳がんデータを集めている。
研究者らはその次の段階として、治療に役立つ有益情報をそれらのデータから発見および整理して報告書を作成する方法を開発中だ。ASCOによると、臨床現場で使えるようになるまでにあと12〜18ヵ月かかる見通しだ。
医師はキャンサーリンクを活用するにあたり、患者の年齢や性別をはじめ、がんの種類、使われている薬の種類、治療方法といった全ての記録をキャンサーリンクのシステムに登録していく。そうして集められた情報はデータベース化され、医師らが自由に検索できるようにする。
同データベースを使うことで、通例となっている治療方法を検証できる可能性も高まる。たとえば、「HER2」と呼ばれる乳がんの初期段階では、化学療法とハーセプチン(Herceptin)の投与が一般的な方法だが、実際には、現在の臨床データでその効果は証明されていない。キャンサーリンクはそういった課題に何らかの答を提示できるとも期待される。
さらに、キャンサーリンクは、症例の少ないがんに対する治療方法の助言を与えることも可能になる。
現段階では、医師と研究者だけが同データベースにアクセスできるが、ASCOは、患者が自ら情報を提供できるポータル・サイトをいずれ設置する予定。
また、個人情報の取り扱いに関する懸念については、連邦および各州のプライバシー保護関連法に準拠するよう設計されている。
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします
最近のニュース速報
-
2024年7月16日 アメリカ発ニュース
米技術業界重鎮ら、トランプ氏の激励をあいついで表明 〜 暗殺未遂速報を受けて続々と投稿
-
ターゲットとショッピファイが提携 〜 ターゲットのオンラインいちばに中小の小売業者らが出店可能に
-
人工知能銘柄が今後10年の株式市場を動かす 〜 シスコの元CEOのベンチャー・キャピタリストが予想
-
2024年7月8日 アメリカ発ニュース, ハイテク情報, 米国ビジネス
スマート包帯の研究&開発が前進 〜 傷口の状態を遠隔追跡、包帯から投薬や電気刺激を可能に
-
飲食店で印刷メニューが復活~QRコード不評で
-
2024年7月1日 アメリカ発ニュース, 世界のニュース, 環境ビジネス, 米国ビジネス
ウェザーXM、ウェブ3とIoTで気象データに革新 〜 動く気象観測所群の分散型連携網を構築
-
米消費者のガソリン車好き続く~KPMGの意識調査
-
2024年6月27日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
対中EV貿易戦争、様々な副作用も
-
傷が早く治る、次世代ばんそうこう~医師との通信も可能に
-
生体認証決済が米国で拡大しつつある 〜 マスターカードやJPモルガンも導入へ