日本の住民票について ~住民票を残したまま海外居住するとどうなる?〜

日本を出て海外で居住されている人でも、日本の「住民票」と聞けばどういうものかお分かりいただけるとでしょう。「自分の現住所を証明するもので役所で取得する」というのが多くの人の認識だと思いますが、ウィキペディア※1ではもう少し細かく説明されていて「住民票とは、日本において市区町村が住民基本台帳法に基づき作成し住民に関する記録を行う公簿の名称である。同法に規定される住民基本台帳を構成するものであり、市区町村によって個人単位もしくは世帯単位で作成され、個人単位で作成されたものは世帯ごとにまとめられる」とあります。今回はこの住民票とその他の手続き(社会保険、税金、年金、銀行口座、電話契約など)の連動性について紹介します。海外居住者の中にも(意図の有無にかかわらず)日本に住民票がある人がいると思いますが、参考にしていただければと思います。

参考:2019年10月17日コラム「海外在住者が知っておくと役立つ日本の戸籍謄本と住民票について」

1.住民票の制度と目的

歴史もののテレビドラマなどでも見かけたことがある人もいるかもしれませんが、昔から日本では住民台帳のようなものが集落によっては存在し、(その正確性は定かではありませんが)その地域の住人の実態を把握する習慣があったようです。現代の日本社会においては昭和27年に「住民登録法」というのものが施行され、全国的に日本居住者の住所が世帯と共に管理されるようになりました。そして昭和42年に廃止され、代わりに「住民基本台帳法」が施行されました※2。これら法律の目的は、前者が住民を登録することで、その居住(していること)の証明、日常生活の利便、人口状況の把握、各種行政事務の適正・簡易な処理などでしたが、後者になると選挙人名簿の登録や、国・地方レベルでの行政手続きの合理化といったことが盛り込まれ、その後も現在のわれわれの日常生活の合理化の実態に合わせ継続的に改正されています。

住民票には単に住所情報だけでなく「世帯主」「家族」「本籍地」「個人番号(マイナンバー)※3」「住民票コード」などの情報があり、住民票を役所で取得する場合は、これらの記載の有無を指定します。なお、「世帯」とは「住居及び生計を共にする集まり」であり「世帯主」はその代表者を意味しますが、日本独特の概念で他の国の居住証明書などでこの記載を見たことはありません。

2.他の制度、手続きとの連動性

前述の通り住民基本台帳法の目的に「各種行政事務の適正・簡易な処理」とありますので、住民登録することでその他の行政手続きの各担当部門や所轄機関とデータ共有し手続きをスムーズに行える仕組みとなっています。特に平成14年(2002年)にはコンピュータ化された住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が整備され、より迅速かつ正確に手続きができるだけでなく、社会保障(健康保険、介護保険、各種社会福祉プログラムなど)の他、国民年金、税金、選挙などの分野での応用が広く進みました。これらの手続きは国籍に関係なく日本の居住者に適用され、保険料や税金の支払いなど加入者の義務と、年金や各種サービス・手当などの給付が一元的に管理できるようになっています。

A. 医療保険(国民健康保険、後期高齢者医療制度)、介護保険

住民登録した日から保険の加入者(「被保険者」といいます)となるので、その日から保険を利用することもできるし、毎月の保険料の支払い義務も発生します。保険証は後日住民登録した住所宛に郵送されます※4

B. 年金(国民年金)

住民登録した日から国民年金の第1号被保険者(20歳~60歳の間のみ)として毎月の保険料の納付義務が発生します※5。もちろん納付した分は65歳からの老齢年金の原資となります。

C. 税金

税金(管轄は国税庁)も独自に電子化され現在確定申告の電子申請も可能です。現在住基ネットとは直接連動はしていないようですが、国民一人ひとりの個人データの共有は可能で、確定申告した後の個人の所得のデータは、その後の地方税(住民税=管轄は国税庁ではなく各自治体)の税額算出に利用されます。

D. 銀行、電話契約

これらは行政手続きではありませんので住基ネットとは連動していませんが、銀行口座の開設や電話契約の際に日本の居住者であることが条件となるためそのための身分証明書としてマイナンバーカードや運転免許証の提示が求められます。

3.住民票の登録手続き(住民登録と消除手続き)

住民登録手続は居住地の市町村役場で行ないます。住民が出産し新たに子ができた場合は出生届を提出することでその子が新規登録されますし、他の自治体(他の市区町村や海外)から引越(転居)してきた場合は転入届を提出します。その際どこから転入してきたかの証明のため、前の自治体の転出証明書、または海外からの転入時には出国地が記載されたパスポートが必要となります。住民登録することで、その住所での住民票を発行・取得することができます。

逆に他の市区町村へ転居(転出)または海外へ転居する場合は転出届の提出が必要です。この手続きをしない限りいつまでもその住所に居住していることになり、連動して国民健康保険や介護保険、国民年金保険料の納付書(請求書)、その他住民宛ての書類が郵送されます。

4.住民票を残したまま海外居住するとどうなる?

海外在住者の中には住民票を意図の有無にかかわらず日本に残したままの人がいます。これにより何か実害(罰則等を含む)があるというわけではありませんが、住民票がある限り、社会保険料と国民年金保険料の納付書(請求書)や督促状が送られ続けます。社会保険料の滞納が長く続くと、市町村役場にて居住実態がないと判断され、住民票は自動的に消除(職権消除といいます)されます。

<備考>
※1:ウィキペディア:世界中のボランティアの共同作業によって執筆及び作成されるフリーのインターネット百科事典のこと
※2:総務省ホームページより抜粋
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san3.pdf
※3:住民登録すると自動的にマイナンバーが付与されます
※4:介護保険は介護認定手続きから始めます
※5:就労してサラリーマンになる場合は会社経由で厚生年金に加入します

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蓑田透 (Minoda Toru)

蓑田透 (Minoda Toru)

ライタープロフィール

早稲田大学理工学部卒業後、総合商社入社。その後子会社、外資系企業等IT業界で開発、営業、コンサルティング業務に従事。格差社会による低所得層の増加や高齢化社会における社会保障の必要性、および国際化による海外在住者向け生活サポートの必要性を強く予感し現職を開業。米国をはじめとする海外在住の日本人の年金記録調査、相談、各種手続きの代行サービスを多数手がける。またファイナンシャルプランナー、米国税理士、宅建士、日本帰国コンサルタントとして老後の日本帰国に向けた支援事業(在留資格、帰化申請、介護付き老人ホーム探し、ライフプラン作成、不動産管理、就労・起業、税務等の相談・代行)や、海外在住者の日本国内における各種代行、支援サービス(各種証明書の取得、成年後見など日本在住の老親のサポート)を行う。

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