雇用ルール、移民法
アメリカの法律 最新情報
- 2020年11月30日
- 2020年12月号掲載
COVID-19以降、人々の働き方や移民・非移民ビザ申請の状況は刻一刻と変化している。状況に応じて新たな規制やルールが日々更新され、飛び交う情報は複雑だ。本特集では、現段階(2020年11月)で把握できている限りの最新情報をお届けする。
雇用
アメリカの雇用ルール
米国は日本と違い、差別禁止法に関わる理由などの例外を除けば、ほぼすべての州で雇用者・従業員の双方がいつでも自由に雇用契約を解除できる随意雇用(Employment At-Will)が原則です。半面、給与や勤務時間などの労働条件に対する規程は非常に厳しく、特にカリフォルニア州は厳格な法律によって労働者の権利を保護しています。
雇用主は、フルタイムで働く従業員に対しては年間24時間または3日間の有給病気休暇(Paid Sick Leave)を保障する必要があります。パートタイムや期間限定の雇用でも年間30日以上勤務する従業員に対して、30時間の勤務あたり最低1時間の有給病気休暇を付与することが義務付けられています。ちなみにカリフォルニア州では新型コロナウイルス感染拡大に対応し、従業員500名以上の一般企業および500名以下の医療従事者を雇用する企業に対して、新型コロナウイルスに感染した従業員に80時間の有給病欠休暇を認めることを義務化しています。
また、1日の勤務時間が8時間に達する場合、雇用主は従業員に10分間の休憩(有給)を2回と30分間の食事休憩(無給)を保障する必要があります。従業員の正確な勤務時間を記録することは雇用主の義務であり、時給制で働く従業員(Non-Exempt Employee)に対しては就労時間を分単位で計算して給与を支払わなければなりません。もしもこの規定に違反した場合には、厳しいペナルティを課される可能性が生じます。
日本ではサービス残業として勤務時間外労働を行うことが暗黙の了解のようになっているケースがあり、いまだにニュースなどで問題になることがあります。しかし、カリフォルニア州の場合、時給制で働く従業員の時間外労働に報酬を支払わないことは明確な違法行為です。労働法および雇用法の規程は州内のあらゆる業種・企業が対象となりますが、特にレストランなどの飲食業やサービス業に違反が多く見られる傾向にあります。開店前の準備や閉店後の後片付けなどもすべて就労時間となるため、注意が必要です。
最低賃金も州法で決められており、カウンティによっても州法に違反しない範囲で独自の基準が設けられています。双方の合意があっても、これに違反する契約は法的に無効です。2016年にはカリフォルニア州でレストランチェーンを展開する日系企業が、最低保証賃金違反と残業代未払いに加え、時間制で働く従業員の勤務時間を記録していなかったことを理由に約50万ドルの罰金の支払いを命じられた事例がありました。
セクシャルハラスメント
日本と米国ではセクシャルハラスメントの定義が異なり、文化の違いから問題が生じることがあります。部下を2人きりの夕食に誘ったり、特定の相手にプレゼントを渡したりすることは避けたほうが良いでしょう。また体型や容姿に関する話題、腕や肩に軽く触れるなどを含む体への接触、性に関する雑談、結婚や交際などに関するプライベートな話題など、セクシャルハラスメントと認識されかねないさまざまなパターンがあります。特定人物の人種、宗教、性別、性的志向に関する発言は避けましょう。セクシャルハラスメントは男女の性別に関係なく起こり得ることにも注意が必要です。
現在、日系企業が進出している多くの州では、雇用主が従業員にセクシャルハラスメント防止のためのトレーニングを提供することが義務付けられています。カリフォルニア州内の従業員数5名以上の企業であれば、非管理職の従業員には1時間、部下を持つ従業員には2時間のトレーニングを社内で提供することが必要です。昨今はオンラインのセクシャルハラスメントおよび差別防止のトレーニングを提供する民間企業も多いので、これを利用し法を遵守しましょう。従業員からハラスメントの苦情が出た場合は注意深く対処する必要があるため、ハラスメントに対処できる人材を置き、苦情を受けた場合の処理の方法を確立しておくことをおすすめします。また連邦法や州法の改正に対応するために、日頃から相談できる弁護士や法律事務所と連携を保つことが賢明といえるでしょう。
差別
アメリカは差別問題にはとても敏感です。たとえば、年配の従業員に仕事が遅いと言うことは年齢差別と受け取られる可能性があります。冗談のつもりで馬鹿、頭が悪い、仕事ができないなどの発言をすることも、障がい者差別として問題となる可能性があるため十分注意が必要です。
同僚との接し方
日本独特の先輩後輩のあり方も問題になることがあります。日本では先輩が後輩を見下すような話し方をすることもある程度受け入れられていますが、さまざまな文化的背景を持つ人たちが働くアメリカでは大きな問題になりかねません。指導のつもりで部下を人前で叱責する、乱暴な言葉で指示や用事を言いつけるといったことは許されません。2013年には、高級寿司店が厨房で働くメキシコ系移民の従業員に対し、自分の包丁を買うように命じたり、残業代の未払いや休憩を取らせなかったりしたことを理由に罰金の支払いを命じられています。
また、アメリカの職場でもチームワークは重要と考えられていますが、目標を達成するために個々がそれぞれのやり方を用いることが広く許容されており、チームとして成功することを目標としがちな日本とは大きく異なります。仕事後に同僚や上司とお酒の場で信頼関係を深めていくことは日本ではよくありますが、アメリカ人の同僚からは、日本人同士で結束を深め昇進に繋げていると見られることもあるのです。アメリカ人も仕事後のHappy Hourと呼ばれるお酒の席に参加することはありますが、上司と行くことはほとんどないため、日本人同士の飲み会が人種差別の訴えを起こされるきっかけにもなり得ます。
Work from Homeの留意点
新型コロナウイルス感染拡大の影響でリモートワークを導入する企業が急激に増え、現時点ですでに2021年夏まではリモートワークを継続すると発表している企業もあります。カリフォルニア州法では、従業員が業務を遂行するため必要なすべての支出は雇用主が負担しなければならないとされており、これには仕事に必要なコンピューターやデスク、電気代、インターネット接続費用も含まれます。不要なトラブルを避けるために、雇用主は弁護士などの専門家に相談して、法に基づいた必要経費の範囲、払い戻しの方法に加え、第一に従業員の安全確保のための就労規則を確立することが必要不可欠です。
正しい知識、正しい対処を
アメリカでは、職場で不当な扱いを受けたと感じた場合に声に出して主張することが当然の権利として認識されています。苦情を受けた場合にはきちんと対処しなければ、従業員が弁護士を雇って損害賠償を求めてくることは決して珍しくありません。米国で起業するためには、日本との習慣や文化の違いをきちんと把握しておきましょう。
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