グルーマー
大橋 里美

文/福田恵子 (Text by Keiko Fukuda)

 高度な資格や専門知識、特殊技能が求められるスペシャリスト。手に職をつけて、アメリカ社会を生き抜くサバイバー。それがたくましき「専門職」の人生だ。「天職」をつかみ、アメリカで活躍する人たちに、その仕事を選んだ理由や、専門職の魅力、やりがいについて聞いた。

「遠方から通ってくれる常連客 丁寧な仕事でその気持ちに応えたい」

 日本の高校では建築科に通っていて、将来は建築設計の仕事に就こうと決めていました。ところが卒業前にバブルが崩壊、建築業界への就職は断念しました。就職しやすい業界は何かと考えた時に、昔から好きだった犬の世話をする仕事が思い浮かびました。そこで、ジャパンケンネルクラブの指定校に2年通い、公認トリマーB級のライセンスを取得しました。同級生は、動物病院に就職していく人が多かったのですが、私はショードッグの世界にチャレンジすることにしました。ショーに出る犬を扱うグルーマーになろうと思ったのです。ミニチュアシュナイザーを手がける第一人者の小林敏夫さんの所に弟子入りして、1年間みっちり技術を習得しました。

 ショードッグを扱った経験は今でも生きています。犬も人と同じで性格もそれぞれ違います。噛み付いたり、落ち着かなかったりするワンちゃんも珍しくありませんが、そういう犬でも私が触るとおとなしくなるとよく言われます。それは、ショードッグを扱っていた時にちゃんと彼らを立たせるコツを学んだからだと思います。

 師匠のもとを離れてからは、青山ケンネルという大手のペットショップに就職しました。ところが、朝の9時から夜の7時までほとんど立ちっぱなしで働いたせいで、疲れが溜まって体を壊してしまったのです。その時、もうグルーマーは辞めようと思いました。アメリカで語学研修しようと、介護ヘルパーの仕事でお金を貯めて2002年にハワイに渡って来ました。

 その後、アメリカ本土に移り、そのままロサンゼルスに残ることにしました。何をして働くかとなった時に、やはりグルーマーの仕事に行き着き、モービルグルーミングと言って、車をサロンに改造して、お客さんの所まで自分が出張するというスタイルのサービスを2年ほど続けました。ところが車が壊れてしまったので、モービルグルーミングは諦め、サンペドロにある大型のペット用品店内のグルーミングスペースで雇ってもらいました。そこで6年間、働きました。

犬に接する寛大さ 器用さと努力が条件

 2011年に、トーランスに現在の「Petite Tail」を開きました。顧客はアメリカ人8割、日本人2割の割合です。前のペット用品店の時の顧客がそのままここまで通ってくれています。「あなたがどこに場所を変えても必ずついていく」と言ってくれる飼い主さんには感謝しています。遠方だとメキシコ、サンタバーバラからの人もいます。近くにグルーミングサロンがあっても、ガソリン代と時間を使って、わざわざ私の所まで来てくれるわけですから、丁寧な仕事をしてその気持ちに応えなければなりません。

 私がいつも心がけているのは手入れしてしばらくの間だけでなく、1カ月経っても可愛く見えるようにケアすることです。ずっとスタイルが可愛くきれいに保たれていれば、飼い主さんも満足して店に戻って来てくれるはずです。私がアメリカに来た頃は、日本と違って、今ほど「犬にお金をかける」感覚がなかったように思いますが、今後はワンちゃんのスタイリングを気にする人がどんどん増えていくと見ています。つまり、グルーマーの需要が増えていくということです。

 アメリカではグルーマーとして働くのに必要な資格というのはありません。日本でも同様で、私が持っているのは、ジャパンケンネルクラブが認定する公認資格です。

 資格が必要でなくても常に技術やセンスを磨くことは大切です。私も日本の専門誌をチェックしたり、年に一度、ドッグショーのためにこちらに来る師匠に会ったりして、日本の最新事情を吸収するように努めています。また、2007年、業界最大のコンペティション、スーパーズーに参加して、ディフィカルティ賞(Difficulty Award:難しい技術を競う部門)を受賞しました。

 グルーマーに向いているのは、手先の器用さももちろんですが、言うことをきかない犬に寛容に接することができる心の広い人、そして自分なりのセンスを生かせる人、そのための努力を怠らない人だと思います。私の師匠の言葉、「グルーマーはハサミを置くまで常に勉強」を胸に、今後は自分のことだけでなく、従業員への教育にも力を入れていくつもりです。

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My Resume
●氏名:大橋里美(Satomi Ohashi)
●現職:グルーマー(ドッググルーミング Petite Tail経営)
●前職:グルーマー、介護ヘルパー(日本)
●取得した資格:公認トリマーB級(ジャパンケンネルクラブ)
●ビジネス拠点:ロサンゼルス近郊
●その他:趣味はサーフィン。
●ウェブサイトなど:petitetail.com
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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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