ギャップイヤーの意味

日本では、何においても横並びが良しとされる。小学校への進学時の年齢は決まっているし、学校を卒業すると基本的に「新卒」という制度に則って、卒業生は一斉に社会に出て働き始める。

一方、アメリカでは入学するのも就職するのもバラバラだ。たとえば、長男のノアが小学校に通い始めた時、同級生の年齢がまちまちなことに、誕生パーティに呼ばれた際に気付かされた。同級生なのだから普通に考えれば7歳の誕生日のはずなのに、それが8歳だったり時には9歳だったりしたことから、「学年を落としている」ことを知った。

ちょうどその頃、小学校教師だという保護者の言葉でその謎が解けた。「可能なら1年、できれば2年、学年を遅らせたほうが子どものため。年齢が上のほうが勉強面でもスポーツ面でも有利だから」と彼女は言った。まさに目から鱗だった。日本でもよく、4月生まれのほうが早生まれの子どもよりも体格面をはじめ有利といわれるが、それを理由に学年を遅らせる親はいないし、第一法律で許されていないのではないだろうか。気になったので調べてみたら、日本では子どもの発育を心配する保護者が小学校への入学を1年遅らせることは「就学猶予」と呼ぶようで、管轄の教育委員会に申請して許可を得る必要があるようだ。

一方、アメリカでは「子どものために学年を落とすべき」と考える親が20年前の時点では少なくなかった。確かに長い目で見れば、1、2年くらい遅らせたからといって有利なことはあっても不利なことなど一つもないと私自身も考えるようになった。

さて、どうしようか

さて、前出の新卒制度はアメリカにはない。卒業後、すぐに働き始める学生の多くはインターンシップを経験することで、その会社から「うちで働かないか」と声をかけられて社員になる。何より、社会での経験がないエントリーレベルの人材が雇用される機会は限られている。

インターンシップを経験しなかった学生は、卒業すると「さて、どうしようか」と、そこから仕事について検討を始める。ニナのルームメイトだった先輩は、大学を卒業してしばらくは定職に就かずK-POPのコンサートに熱心に通っていた。「そろそろ本気で働かないと」と就活を始めてから数カ月後、理系の彼女は無事にバイオ関係の研究所に入所した。働き始めたのは大学卒業から1年後のことだった。

アメリカでは高校を出てから大学に入学するまで、または大学を出てから就職したり大学院に進学したりするまでに1年程度休むことを「ギャップイヤーを取る」と呼ぶ。日本のように「大学を出たらすぐに就職。だから3年生の時点で就活開始」というレールは最初から用意されていない。「落ち着いて将来何がしたいか考えてみよう」とか「海外旅行に出掛けてみよう」とか、「ボランティア活動に携わって経験を積もう」とか、それぞれがさまざまな目的を持ってギャップイヤーを過ごすのだ。振り返って考えれば、その1年間で経験できたことや考えを巡らせたこと、人との出会いなどが大きな糧になったことに後で気付かされるかもしれない。

かくいう私自身、大学は現役で入学、社会へも大卒後に新卒で入社したが、その会社を20代後半で辞めて渡米、ロサンゼルスで過ごした8カ月の期間が私にとってのギャップイヤーだった。それまで息つく暇なく走り続けていたのだが、ロサンゼルスに来て世界中から集まってきた人々と出会い、新たな価値観を習得し、学ぶことが実に多かった。

実は今年6月に大学を卒業するニナもすぐに働くのではなく、ギャップイヤーを取ることにした。しかも日本で。彼女がその期間を意味あるものにできるかどうか、親として見守りたいと思う。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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