Vol.38 巧みな狩猟の跡地
バッファロー狩りの断崖
− カナダ アルバータ州 −

広大な「バッファロー狩りの断崖」。かつて壮絶な狩猟が行われていたことが想像できないほど、 現在は穏やかな自然に囲まれている©︎Dave Sutherland/flickr

カナダのアルバータ州南部、壮大な自然の中に広がる「バッファロー狩りの断崖(Head-Smashed-In Buffalo Jump)」は、その名が示す通り先住民によるバッファロー狩りの舞台となった断崖だ。

今から5000年以上前から、この地では先住民ブラックフット族によってバッファロー(アメリカバイソン)の追い込み猟が行われていた。その狩猟技術は驚異の業で、彼らは巧妙にバッファローの群れを高さ10~15メートルの断崖へと誘導し、追い込んで転落させ、崖下で待ち伏せている仲間が石斧や槍でとどめをさしていたとされている。こうすることで、彼らは一度に膨大な量の獲物を得ていた。捕獲されたバッファローは食料としてはもちろんのこと、羽毛や皮は衣類や住居用のテントに、骨や角は工具や武器といった生活用品に加工されていた。こうして5000年も前から、この地ではすでに持続可能な生活様式が営まれてきていたのだ。

1938年には10メートル近くにわたってうず高く堆積するバッファローの骨の数々や、捕獲したバッファローの解体に用いられたと思われる道具が発掘された。これを皮切りに、ブラックフット族による当時の生活様式や狩猟技術、またバッファロー狩りによる持続可能な生き方が自然との調和の中でのいかに実践されてきたかが、徐々に明らかになったのである。断崖とその周辺は、単に先住民による歴史的な狩猟地としてだけでなく、先住民がこの土地そのものとどのように調和しながら豊かな文化を育んできたのかを示す貴重な証拠となった。

このように、「バッファロー狩りの断崖」は人類の叡智と自然への敬愛が見事に融合した場所として、また人と自然の古の共生を物語る顕著な証拠として、1981年に世界文化遺産としてユネスコの世界遺産に登録された。

先住民の知恵と壮大な景観

まずはビジターセンターでこの地の歴史や特徴について学ぼう。施設内部では先住民の狩猟技術や生活様式、彼らの文化と自然との関係性を詳細に解説する展示物を見られる。考古学的な発掘物なども展示されており、この地の特別性と重要性を物語る貴重な遺物を間近で見ることができる。

ビジターセンターでひと通り学んだら、ガイド付きツアーに参加しよう。知識豊富な専門ガイドから断崖の歴史や自然環境についての解説を聞きながら散策することで、この地の魅力をより深く体験することができる。先住民の歴史や文化を学べることはもちろん、自然に囲まれたこの場所では豊かな生態系や美しい景観も堪能できるので、写真愛好家にも人気だ。

遮るものが何もない「バッファロー狩りの断崖」の広大な平原にひとたび立てば、それは忘れがたい経験になるはず。

遺産プロフィール

バッファロー狩りの断崖
Head-Smashed-In Buffalo Jump

登録年 1981年
遺産種別 世界文化遺産
https://headsmashedin.ca

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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